リブラの章

ジェミニは双子の子どもの一人を育てるため
山ごもりを始める

子どもの成長を見守りながら
不思議な力に恐怖心を抱き始める

やがて育てた子どもは自らの意志で旅に出ようとジェミニを説得するのだが……

神々のパワーバランスによって争いは起き
神々のパワーバランスによって平和が保たれている。
我々の世界は天秤に掛けられた皿の如く
常に揺れ動いているのだろう。
どちらかの比重が増すとバランスを失い
片側からはジリジリとパワーがこぼれ落ちていく。
かくして、世界の格差は広がっていくことだろう。

神の子として、生まれた子によって
リブラのバランスが揺れ始めた。

1人は母親の愛を受け継ぎ、1人は父親の愛を受け継ぎ揺れながら成長していく。
生まれた双子は、それぞれ別々の石を持って生まれた。
石にはなんの刻印もなく、どちらが運命を背負う子なのか両親にはわからなかった。
生まれてすぐに二人は引き離された。

カシミール「あなた!どこへ連れて行くの?」
ジェミニ「これからの試練のために、オレはこいつを育てなければならない」
カシミール「どうするの?この子だってジェミニの子よ!」
ジェミニ「すまない。お前に預ける。頼んだよ」
カシミール「私、1人を置いていくの?私に責任を押し付けて・・・・」
ジェミニ「頼んだ・・・」
カシミール「身勝手よ・・・」
俺が生まれた時も石を持って生まれた。
石にはジェミニの刻印が印されていた。
俺の名前はジェミニ。
刻印の無い石を持って生まれた双子のうち一人を連れて、俺は旅立つことに決めた。
既に決まっていた人生だ。
そう運命によって定められた俺の子によって、世界は混沌となることは伝記によって印されている。
俺は迷わず二人を引き離すことに決めていた。
母親であるカシミールとは意見が別れていた。
ジェミニの刻印の石を持っていることを伝えたのは、妊娠を知ってからだった。
もし双子が生まれるようなことになれば、その時は迷わず二人を引き離さなければならない。
その時が来たのだ。
この世には12の石があると聞く。
その一つは俺が持っているジェミニの刻印の石だ。
この石には大きな力が宿っている。
この力を使いこなせるようにならなければならない。
都会から離れた森に囲まれた田舎町に移り住み、時が来るのを待っていた。
冒険とは無縁だが石の力をコントロールする術は山や森が教えてくれた。
刻印のない石にどんな力が備わっているのか今はわからない。
二人を近づけてはいけないのだ。
人気のない山奥に身を潜め、俺の子に力の全てを教えよう。
・・・
この世界は不思議だ。
生まれてすぐに全ての子供や獣たちが決められた運命をたどることが分かっている。
生まれた子どもの運命を知るための全ての子供が石を手にして生まれてくる。
石を持たずに生まれてくる子供は生まれてすぐに亡くなる定めすらあるほどにその石に刻まれた運命は計り知れない。
獣たちは石が体に埋め込まれていることがほとんどだ。
町外れで獣たちに遭遇したら、肉体から石を取り外せと初めに教わるのだ。
石が付いている限り、獣たちは蘇る。
石には皆、刻印が何かしら刻まれている。
火の刻印、水の刻印などが一般的だ。
人や獣がこの世に生まれると同時に、精霊もまた誕生する。
通常、刻印に刻まれている精霊がその者の傍にいる。
火の刻印を印した石を持って生まれた人には、火の精霊が人生の助言者としてまとわりつくのだ。
人生の役割分担は相手の精霊を見ればすぐに分かる。
火を起こして欲しい時、水の精霊には頼まない。
火の精霊を持つ人にお願いすればいいのだ。
カシミールには常に光の精霊が付いていた。
おそらく光の刻印をした石を持っているのだろう。
そう、おそらくだ。
我々は滅多なことでは自分の運命を司る石を相手には見せない。
それは将来をも見透かされてしまいかねない危険が伴うからだ。
それはたとえ結婚したとしてもそうなのだ。
力のある人間は、水の刻印を持つ石を持っていても、相手には水の精霊を見せないことができる。
隠しておいて、自分の周りには火の精霊と一緒にいることができるのだ。
これは大人の特権だろう。
子供の頃はまだ力が弱い。
そのため、生まれたばかりの刻印と同じ精霊の指導が必要となるのだ。
俺の子にはそう、刻印がない。
なんの力も持たないのか、はたまたどんな力でも吸収してしまうのか。
この運命が決まっていない子供にどのような人生を歩ませればよいか。
俺が決めてやらなければならないのだ。
・・・
俺は子供に、ジュニアと名前を付けた。
何の変哲もない二世という意味だ。
これといって良い名前が浮かばず、安直に名前を決めたのだ。
ジュニアは俺の適当な子育てにもかかわらず勝手に育って行った。
子供とはこのようなものなのだろうか。
石の精霊を友達のように呼び出し、今では立派に狩りをし、すくすくと育っている。
この世界には精霊の力で火を起こしたり、水を湧き出したり、明かりを灯したり、風を吹かせたり、道を作ったりと何でもできる。
植物に宿る精霊の力は、風が多く、山のふもとにも河川を作る水の精霊がたくさんいる。
森には多くの精霊の力が自然と溢れているのだ。
ここに連れて来たのはやはり正解だったようだ。
もう一人のカシミールに預けた子供はどのように育っているだろうか?
今ではそればかりが気がかりでならない。
やはり、引き離すべきではなかったのだろうか?
年を重ねるごとに後悔の念にさらされていた。
ジュニアは大きな力を持っている。
それはつまり、もう一人の子は力なく育っているということだ。
力のない子に世界を動かすことはできない。
それは世の常だ。
今はこのジュニアの力をコントロールすることに注力しなければならない。
この子を野放しにすることの方が世界を破滅に追い込む恐ろしい結果になるのだろう。
どんなにもう一人の子が気になるとしても、ジュニアから離れることはできないのだ。
・・・
ジュニアは賢い子供だ。
精霊が自分の石に居ない事は幼くして感じていた。
そして、誰もが考えないような変わった質問を目を丸くして真面目に聞いてくるのだ。
ジュニア「なぜ、僕の石には刻印がないの?精霊も付いてないよ」
ジェミニ「それはお前が人生を決めていいという事だ。他の人にはない特別なことなんだ」
ジュニア「この石は河川にある石と何が違うの?そのまま忘れてきたらどこに置いたのか区別が出来ないよね」
ジェミニ「あぁ、そうだな…でも、手放すなよ。それが他人の手に渡るとお前の人生も他人の手に落ちることになる。石を粉砕されたらお前の命もそれまでだ」
ジュニア「この石にそんな力があるようには見えないんだけどなぁ」
ジュニアはお手玉遊びをするかのように自分の石を弄んだ。
ジェミニ「こらっ!石が傷ついたらお前も傷つくから止めろ!」
こんなやり取りをもう五年以上も続けている。
ジュニアは13の歳を数えるまで成長していた。
いつものように、森で集めた精霊たちと楽しげに話をしていたが、ある時人生を狂わす話をジュニアは精霊たちから聞かされた。
風の精霊「君はいつまで森の中に住んでいるの?他の人間たちと一緒に麓の城下町に移り住まないの?」
精霊には決まった姿はない。
鳥になったり、霧になったり、形無く空中を彷徨っている。
形を作るのは精霊が支配された時か契約した時だけだ。
形無く自由に人間の周りを飛び回ることは滅多に起きないことだが、ジュニアの周りではそれが日常の如く起きていた。
ジュニア「この森で修行してるんだ。将来、僕に降りかかる災の為にね」
風の精霊「強くなりたいの?」
ジュニア「うん。そうだね。たぶん…」
風の精霊「ふぅ〜ん。じゃぁさ。やっぱ、この山の麓にある城下町のお城に行ったほうが強くなれるよ」
ジュニア「えっ?なんで?」
風の精霊「あの城にはね。珍しい刻印が記された石があるんだよ。誰でも手に触れていいんだって。君が触れたらなんか凄いパワーが開放されたりして。うふふ」
ジュニア「へぇー、なんか面白そう。お父さんに聞いてみよぉー」
ジュニアが精霊たちから聞かされた話を知っていたが、ジュニアに触れさせてはいけないと俺の心には警笛が鳴っていた。森から出ること山から降りること、これらを禁じたのはその為でもある。
ジュニアをここに閉じ込めていたかったのだ。
俺の気持ちも知らずに精霊たちがジュニアをけしかけた。
もちろん、大反対だ。
俺は今まで見せた事ない怒号と苛立ちを露わにしてジュニアを叱り飛ばした。
ジュニアはその反応にビックリすると共に怯えるでもなく猛反発の反論を始めた。
初めての反抗期、初めての大喧嘩の末、ジュニアは勝手に一人山を降りていった。
走るスピードは風の精霊に力を借り、風の如く早く、俺の操る風の精霊をするりと交わし、終いには俺の精霊への束縛を無力化し開放し俺を無力に追い込んだ。
俺にはなす術もなく、あっという間にジュニアを見失ってしまった。
これでは、まずい!
ジュニアを探し出さなければ。