月夜の森

森の中で出会った、魔法使いルリの家へ招待される事になった、実技学校の生徒ライルとエリオル。
町よりも大きな森を一人で管理するルリに、警戒を示すエリオルだが。。


「私は明日あなた方が訪問する魔法学校の生徒です」

私は何を言ってるんだろう。

今会ったばかりの人を家に誘うなんて…。

この人たちが今日先生が言っていた実技学校の人…。

実際に剣を出してたし間違いないだろう。

「魔法使いだったのか…どうりで…。でないと剣を拳で躊躇なく殴れないもんね」

「まぁ…そうですね…」

彼らに攻撃を仕掛けられたのは魔法で空気の塊を手にコーティングしていたから。

どんな人かも分からなかったし…。

属性魔法がない私はこの魔法でないと相手に近づけない。

「とりあえず向こうに連絡をとった方がいいと思います」

「すごい怒られそうだね」

2人は散歩と言っていたが、こんな時間まで外にいれば怒られもするだろう。

「朝になれば学校まで魔法陣で行くことが出来ますから合流できると思いますよ」

「それ以外に手はなさそうだな…」

「よかったねライル。結果オーライ!!

こうなった元凶らしき彼がビシッと親指をたててポーズを決める。

いい顔だったのは一瞬で…。

―ゴンッ!!!

彼は思いっきり殴られ、鈍い音が響く。

声にならないほど痛かったらしく、殴られた場所を押さえたまま動かない。

剣で切られるよりはよかったと思うが…。

「すまない。世話になる」

「はぁ…」

あっちの人は大丈夫かなぁ…。

 

 

―――――――――――

 

「では案内しますね。はぐれないように気をつけてください。じゃないと……」

そういいながら振り返った彼女の後ろには暗闇にギラギラと光る無数の目。

何かが一斉にこっちを見ている。

「襲われても文句いえませんからね」

彼女の顔は何故か笑顔だった。

森の管理人は森の全ての生き物に認めてもらえないとなれないと聞く。

彼女が森を管理しているなら一緒にいれば安全なんだろう。

「き、気をつけるよ…」

エリオルは完全にビビってる。

見てて面白いな…いい気味だ。

なんの生き物かは少し気になったが、あえて聞かずに俺たちは歩きだした。

「そう言えば自己紹介がまだだったね」

森を歩いて10分。

会話なく歩いていたのに耐えられなくなったのかエリオルは話を切りだす。

「そうですね」

「俺はエリオル=アドリード。で、こっちの無愛想なのがライル=コートヴェール」

「一言よけいだ」

俺はエリオルを睨む。

否定はしないがこいつに言われるとむかつく。

「冗談だよ…」

彼女はクスッと笑って俺たちの方を見る。

「私はルリ=カトレットです」

「ルリちゃんね。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 

「ルリちゃん年いくつ?」

16です」

俺の予想は当たっていた。

「おっ、俺たちと同い年だ。敬語じゃなくていいよ?」

「まぁ…そのうちに」

「一人で暮らしてるの?」

「えぇ…まぁ」

「……」

全ての質問を微妙に答えられ、ネタ切れになったエリオルは助けを求めるように俺に視線を送ってくる。

俺の方が苦手なの分かってるくせに…。

そんなこと振られても困る。

俺は視線を反らした。

「!」

ショックを受けたのか今度は文句を言いに近寄ってくる。

『何で無視するんだよ!!

何故か小声だ。

『無視はしてない。態度で示しただけだ』

『うぅ…』

反論出来ないようだ。

俺の勝ちだな。

『本当について行って大丈夫なのかなぁ…。俺なんかこわいんだけど』

『仕方ないだろ…嫌なら一人で戻れ』

俺は屋根のあるところで寝られるならそれでいい。

『だってあの子学生だろ?それなのに一人でこの広い森の管理人って……』

確かにエリオルの持っていた地図では町より森の方が大きかった。

『俺に聞くなよ』

その時突然彼女は止まり、クルッと回って俺たちの方を向く。

!!

「どうかしましたか?」

「いやっ…何でもないよ!」

まだビビってる…。

「そうですか。さっ、着きましたよ!お疲れ様です」

俺とエリオルは5歩ほど前に進み出た。

目に映ったのは木で造られた家。

「こんな所に家が…」

「見ての通り小さな家なのですが…。ゆっくりしていってください」

こんな所に一人で住んでるなんて彼女は一体…。

「あっ!ハク!!

彼女が走り出した先には一頭の馬がいる。

いつの間に…。

「荷物運んでくれてありがとう!重かったでしょ?後で人参たくさんあげるね」

よく見ると馬は首に鞄をぶら下げ、口には大きな袋を咥えている。

「あれ…多分この森の動物だよな…。名前ついてたけど…」

「だろうな」

そもそも馬って森に生息しているものなのだろうか?

細かいことは気にしないでおこう。

森に関する知識もないし初めて来る地だ。

気にしていたらきりがない。

「野生動物を手懐けることも出来るのか…」

いつの間にか彼女は馬から離れて家のドアを開けていた。

「中へどうぞ」

俺とエリオルは吸い込まれるように家の中へと入っていく。

「適当に座って下さい」

入った瞬間妙な違和感を感じた。

「あれ?思ったより広い…?」

エリオルも感じたらしい。

「気づきました?少し魔法で空間を広くしてあるんです」

「なるほどね…」

魔法ってそんなことも出来るのか…。

「ちょっと待っててくださいね」

思い出したように彼女は奥から電話を取り出すと、少し操作して俺たちに差し出した。

「電話?」

「その丸いボタンを押したら宿に通じますよ」

怒鳴り声を聞くのは目に見えている。

俺は目でエリオルに訴えた。

「はいはい。俺がしますよ」

今回はエリオルが怒られなくては気が済まない。

エリオルは電話を受け取り、ボタンを押した。

 

 

―――――――――――

 

しばらくするとライルさんが耳を塞ぐ。

「一体いつになったらちゃんと集団行動してくれるんですか!!!!

疑問に思った瞬間、電話越しなのに怒鳴り声が家中に響き渡った。

少し離れていた私でさえ耳を塞ごうと思ったくらいだ。

エリオルさんも会話するちょっと前から耳を塞いでいたらしく、あまり動じていない。

こういったことは初めてではないようだ。

「明日ちゃんとそっちに向かいますから」

必死の説得から5分くらいたつとエリオルさんは回線を切らずに私に受話器を差し出した。

「?」

「先生がルリちゃんに変わってくれって」

エリオルさんから受け取り、受話器を耳に当てる。

「お電話かわりました」

「どうもすみません。生徒がそちらにご厄介になっているようで…」

聞こえてきたのは先程の怒鳴り声の主とは思えないくらい優しく穏やかな声だった。

「いえ、気にしないでください」

あのまま森にいられても困る。

動物たちに襲われたりなんかしたらよけいにだ。

「すみませんが2人のことをよろしくお願いします。どんどんこき使って構いませんから」

「はい」

「では失礼します」

そこで電話は切れた。

「なんだって?」

2人をよろしくだそうです」

「よく宿泊場所が分かったな」

「この町には宿屋が一軒しかありませんから。夕飯を作るので待っててください」

夕飯はカレーにする予定だったが今からでは時間がかかる。

仕方ない、野菜炒めに変更だ。

実技学校に通う生徒の家は大抵が有名な資産家や大企業の経営者だと聞く。

そんな人たちに私の料理が口に合うのかどうか…。

とはいえ、凄い料理を作る材料も技量もないし我慢して食べてもらおう。

他にサラダとスープを作り、テーブルに並べる。

「美味しそうだね」

「お口に合うかどうかわかりませんが…どうぞ」

「「いただきます」」

丁寧に手を合わせて2人は料理に箸をつけた。

「美味しい!!ねっ、ライル!

「あぁ。夕飯まで作ってもらって悪いな…。」

それを聞いてホッとする。

「ルリちゃんも食べなよ。冷めちゃうよ?」

「そうですね。いただきます」

最後に誰かと一緒に食事をしたのはいつだっただろうか…。

私は久しぶりに楽しい夕食を過ごした。

 

 

―――――――――――

 

「今日はお疲れ様」

エリオルは案内された2階の部屋の布団にごろんと横になった。

「ある意味良かったよね。集団で泊まるよりこっちの方がずっといい」

「そうだな」

「あっ!!星が凄い綺麗だよ!!都会じゃなかなかみれないもんね」

エリオルがそう言いながら窓を開けると優しい風が吹き込んでくる。

ここは空気もいい。

「ここから屋根に登れそうだよ。行ってみない?」

「あぁ」

俺たちは窓から外に出て屋根に登った。

「満月だったんだね。タイミングが良かったみたい」

「綺麗だな…」

こんなに澄んだ夜空を見るのは久々だ。

「今日はよくしゃべってたね。怒ってても俺以外の人の前であんなに口開くことなかったのに」

「全部お前のせいだろ。あれは流石に怒らずにはいられなかったしな。フォローもしてやっただろ」

普段人前であんなに怒ることなんて滅多にない。

「感謝してるよ」

「当たり前だ」

しばらくしてエリオルはゆっくりと立ち上がった。

「そろそろ戻ろうか。少し冷えてきたし。明日朝早いからもう寝ないとね」

「俺はもう少しここにいる。先に寝ててくれ」

この夜空をもう少し見ていたい。

「寝坊しても知らないよ?」

「お前じゃあるまいしそんなへまはしない」

どうせ俺がエリオルを起こす羽目になるんだ。

「じゃ、起こしてね」

エリオルは苦笑しながら部屋に戻っていった。

俺は再び夜空を見上げる。

空が広くて自分が小さく感じる。

なんてゆったりした時間だろう。

いつまでもこうしていたい気分だ。

夜空を充分に満喫し、部屋に戻ろうと立ち上がるとドアの開く音が聞こえた。

屋根から落ちないように上からそっとのぞき込む。

なぜか彼女がこっそり外に出ようとしていた。

こんな時間にどこへ行くのだろうか?

じっと見ていると彼女は何やら呪文を唱え始め、地面に魔法陣が浮かび上がる。

魔法陣を見る限り空を飛ぶ魔法のようだ。

色々考えている間に彼女は一気に空へ飛び上がった。

予想的中だ。

月光を体中に浴びて映し出された彼女のシルエットに俺は目を奪われた。

今まで魔法使いが空を飛ぶ光景を何度も目にしてきたが、綺麗だと思ったのは初めてだった。

彼女はくるくるとその辺を飛び回ってようやく俺に気がつく。

「なっ、なんて所にいるんですか!!?危ないですよ!!

「君こそこんな時間に何をしているんだ?」

「森の見回りです。……って聞いてるのはこっちですよ!

「空があまりにも綺麗だったから…」

目に焼き付けておきたかった。

美しい森と夜空に澄んだ空気、優しい風、今感じるなにもかもを。

「そういえば今日は満月ですね。そうだ!一緒に見回りに行きませんか?」

「俺は空なんて飛べないが…」

「大丈夫です。私がライルさんも浮かせますから」

2人も浮かせるのって難しいんじゃ…」

魔法は詳しい方じゃないがそれくらいは知っている。

「平気です。基礎魔法は得意なんですよ」

そう言って彼女は俺に手を差し伸べる。

俺は少し不安に思いながらもその手をとった。

「じゃっ、行きますよ」

彼女の言葉と同時に体がふわっと浮き上がる。

覚悟したつもりだったのに不安定でなんとも言えない感覚に少しだけうろたえた。

高所恐怖症ではないが、高いところは緊張する。

「こんなに広い森を回りきれるのか?」

いくら空を飛べても月明かりだけではこの広い森を一人で全部見ることは出来ないだろう。

「回りませんよ」

「えっ?」

「あと少しで着くので待っててください」

スピードはどんどん加速していき、落ちるんじゃないかと不安で彼女の手を必死に握る。

他の人が見たらかなり情けない状態だろう。

彼女はどこに向かっているのだろうか。

「到着です」

そう言ってゆっくり下りていく。

地に足がついて不安定なものがなくなり、安堵した。

「ここは?」

辺りを見渡したが特に何かあるわけでもなく、今いるところが特別な場所のようには思えない。

「ここは森の中央なんです」

「でもどうやって森全体を見るんだ?」

地上に下りてしまったし見渡すことも出来なくなってしまった。

彼女が何を考えているのか分からない。

「聞くんですよ」

「聞く?」

「森に住む動物たちの声です。それだけで問題が起きてるか起きてないかが分かりますから」

彼女はそう言って目を閉じ、耳に神経を集中させた。

俺も試みてみたが、聞こえるのは風に揺れる葉の音だけでそれ以外は何も聞こえない。

普通では聞こえてない何かを彼女は聞き取っているみたいだ。

どの森の管理人もみんな彼女みたいに見回りをしているのだろうか。

魔法を使っている様子はないし特別な訓練が必要なんだろう。

しばらくすると彼女は目を開いて手を一回叩いた。

「よしっ!今日も異常なしっ!!

「見回りは毎日してるのか?」

「はい。見えないところで何が起きてるか分かりませんから」

「一人で大変だな…」

俺がこんな大きな森を任されたら重荷に感じて途中で投げ出したくなる。

「毎日いろんな話が聞けますし、楽しいですよ」

この歳で誇りを持って仕事をしている彼女が羨ましい。

「君に面倒見てもらえて森の動物たちは幸せだな」

「ありがとうございます。そうだといいのですが…。せっかくだから少し遠回りして戻りましょうか」

再び空を飛び、俺たちは輝く夜空の散歩を楽しんだ。