魔法学校(1)


翌朝。

「起きろエリオル。いつまで寝てるつもりだ」

なかなか起きないエリオルの頬を俺は何度も叩いた。

「あと5分…」

何を悠長なことを…。

「そんなに待ってられるか!さっさと起きろっ!!

次はさっきよりも強めに叩く。

「痛いって!!起きるから!でもまだ眠い…」

「殴ってやろうか?目が覚めるぞ」

「それだけは勘弁して…」

やっと起きたエリオルを連れて一階に向かう。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

彼女はとっくに起きていた。

俺よりも寝たのは遅かったはずだが…。

エリオルも見習うべきだ。

「うん。それはもうバッチリ」

「それは良かったです。朝ご飯出来てますよ」

「本当!?早速いただくよ」

エリオルがギリギリまで寝ていたため、ゆっくりはしていられない。

俺たちは急いで彼女の作った朝食を食べるはめに…。

朝食を済ませた後、軽く身仕度をして早々に外へ出る。

「世話になった」

滅多に出来ない経験もさせてもらったし感謝している。

「久々に賑やかで楽しかったです。こちらへどうぞ」

彼女に案内されるままついていくと、家の裏側に向かった。

地面には魔法陣が一つ描かれている。

おそらく転移の魔法陣だ。

「これ、学校に繋がってるの?」

彼女は縦に首を振る。

「一瞬で着きますよ。2人ともこの上に乗ってください」

「楽しみだなぁ。どんな学校だろう」

「普通の学校です。そんなに面白い物はないと思いますけど…」

「いやいや、魔法学校っていうだけでも俺たちは楽しいから」

言われた通りに魔法陣に乗ると地面が光り出す。

魔法で移動するのは初めてではないが、魔法に慣れていない俺たちは毎回緊張する。

「私もすぐに行きますから待っててくださいね」

そう言って彼女が軽く呪文を唱えると輝きが増していく。

俺は眩しさに耐えられず、目を瞑った。

次に目を開くと正面には魔法学校。

当たり前といえば当たり前なのだが、ちゃんと目的地に着けたことにホッとする。

「魔法ってやっぱ凄いなぁ…」

「お待たせしました」

「うわっ!!ルリちゃん…全然待ってないよ」

俺たちがここについてから10秒もしないうちに彼女は現れた。

その場から動かなかった俺たちが悪い。

「集合場所はどこですか?」

「大会議室だよ」

「では案内しますね」

 

 

―――――――――――

 

「実技学校の人だよねっ!?カッコイイ~!!

「ああいう人をパートナーにしたいわ」

大会議室までの間、あちこちから2人を賞賛する声が聞こえる。

ちらっと後ろの2人を見たが、全く気にしていないようだ。

馴れてるのかな…?

目的地までの道のりがとても長く感じる。

「ここが大会議室です」

ようやくたどり着き、ガラガラとドアを開けた。

「色々ありがとうルリちゃん」

「いえ、良いパートナーが見つかると良いですね」

人気もかなりのものだったし2人ならすぐに見つけられるだろう。

「パートナーねぇ…まぁ頑張って探すよ。4日間あるんだ。生徒のリストもらえるし、どこかでまた会えるよね」

「そう…ですね」

彼らに配られるリストに私の名は載っていない。

「ルリちゃん?」

「では、私は教室に行きますね」

私は無理やり笑顔をつくり、早々に挨拶を済ませて早足で教室へ向かった。

いくら小さな町の魔法学校とはいっても施設はそれなりに多い。

知らない人が地図なしで目的地にたどり着くのは難しく、彼らに偶然出会うなんてこともまずないだろう。

そう思ったらなんだか少しだけ寂しくなった。

一晩一緒に過ごしただけなのに…。

顔に出さないように私は教室の中へ入った。

 

 

―――――――――――

 

「お二方」

ミーティングが終わって俺たちを呼び止めたのは昨日電話で会話したキュリエ先生だった。

「昨日はすみませんでした」

開口一番にエリオルは謝った。

俺も一緒に頭を下げる。

「お礼は言いましたか?」

「はい。もちろんです」

「私もお会いしたかったのですが…対応出来たなら良いでしょう」

「生徒のリストをもらえませんか?」

「えぇ、どうぞ」

なぜか俺に渡されたリストはエリオルに渡されたものより半分の量しかない。

「あれっ。ライルの方が量少ない?」

「小さな学校ですし…学校側としては首席であるライルさんに優秀な方をパートナーにして頂きたいので、リストの中からさらにリストアップさせて頂きました」

余計なことを…。

「みんなに配っている物も頂けますか?」

「それは構いませんが…」

「ご厚意感謝します。しかし、誰とパートナーを組むのか決めるのは私です。こういったことはして頂かなくて結構です」

「わっ、分かりました。今後こういうことがないように私から担当の者に伝えておきます」

少々しゃべりすぎたか…。

普段はあまり話さないから驚いたようだ。

「では私はこれで失礼します」

軽く頭を下げて先生は去っていった。

「珍しいね。俺のがあるから別によかったのに…」

「特別扱いが嫌なだけだ。ほら、さっさと行くぞ」

俺たちは学校の見取り図とリストを持って大会議室を後にした。

 

 

―――――――――――

 

「カトレットさんっ!!朝一緒に歩いてた人、実技学校の人だよね?知り合いなの!?

「えっと……」

教室に入った瞬間、目を輝かせた女子に囲まれて質問攻めにあった。

「だっ…大会議室の場所を聞かれて案内しただけですよ」

さすがにこの雰囲気で一晩家に泊まったなんて言えない…。

嘘にならないよう、無難に答える。

「なんだぁ~。知り合いだったら紹介してもらおうと思ったのに…」

言わなくて良かった…。

「でもいいなぁ。あんなカッコイイ人に声かけられるなんて…」

2人目立ってたもんね…。

「名前聞いた!?

「いえ…残念ながら」

「そっかぁ…」

本当は知ってるけど…。

「フッフッフッ…私知ってるわよ」

「えっ?」

話に割って入ってきたのは学校新聞の編集長として名を馳せている人だ。

「私たちの方にはもう実技学校の生徒名簿がきているの」

「さっすが編集長!!教えて!

いつの間に…。

情報早いなぁ…。

「銀髪の人は実技学校の首席でライル=コートヴェール。もう一人はエリオル=アドリード。彼は次席ね」

首席と次席!?

「本当!?私狙おうかなぁ…」

「バカね。私たちの実力じゃ釣り合わないわよ」

「そうだよねぇ」

まさかそんなに凄い人だったとは…。

失礼なことはなかったか慌てて昨日のことを思い起こす。

大丈夫…だよね?

―キーンコーンカーンコーン…

予鈴が鳴ると、みんなそれぞれの席に戻っていった。

 

 

―――――――――――

 

一通り校内を見学し、俺とエリオルは予定をたてるべく大会議室に戻った。

今は俺たち以外誰もいない。

「どこに行く?実技の授業とか面白そうだよ」

「楽しそうだな…お前、別にパートナーつくる気ないんだろ?」

俺たちは教師たちに強制的に連れてこられてここにいる。

観光気分が味わえれば十分だ。

「ライルだってそうでしょ。パートナーを決めてくれなんて無理な話だよねぇ。人生のパートナーだよ!?

「そうだな」

一度魔法使いと組めばどちらかが死ぬまでその関係を解消することは出来ない。

簡単に選ぶことなんて出来るはずがない。

「でもせっかく来たんだし楽しもうよ。そうだ!!どうせならルリちゃんのクラスの実技の授業見に行こうよ!

「なんで彼女なんだ?」

「そりゃ知ってる人がいたほうがいいでしょ!えーっとルリちゃんのクラスは…」

エリオルは生徒のリストを取り出し、彼女の名前を探し始めた。

俺は後ろのページから探していく。

歳は分かっているしこの学校は各学年一クラスしかない。

見つけるのに苦労はしないだろう。

と思っていたのだが…。

「あったか?」

「……ない……」

エリオルは勢い良くリストをペラペラと捲っていく。

「ないっ!ここにもないっ!!ここでもないっ!!!どこにもなぁーーいっ!!!!

とうとう叫び出した。

「静かにしろ。授業中なんだから」

「だってルリちゃんの…ルリ=カトレットの名前がどこにも載ってないんだよっ!!5回も見直したのに!

俺は一回しか見てないが、確かに彼女の名前は見つからなかった。

「……リストを作った先生に聞いてみるか…」

「そうだね。早速行こう!!

俺たちは職員室を目指した。

「何で載ってなかったんだろう…。もしかして偽名だったとか!?それともここの生徒じゃなかったとか!?

エリオルは一人で勝手にパニクり、目的地を通り過ぎていく。

「落ち着け。ここだろ職員室」

「あぁ…そうだった」

軽くドアをノックする。

「失礼します」

ドアを開けると、少しだけ室内がざわついた。

突然見馴れない制服を着た人間が来たら驚くか…。

小さな町の学校で何か失礼があったら困ると思っているのだろう。

そんなこと全く気にしないのだが…。

「どのようなご用件ですか?」

「このリストについて伺いたいことがありまして」

「それを作ったのは確か……あちらで少々お待ちください。呼んできますので」

俺たちは職員室の中に入り、案内された椅子に腰掛けた。

しばらくすると、少し背の高い女性教師がリストを片手に持ってやって来る。

「お待たせしました。ミセルと申します。リストに何か不備がありましたか?」

「リストにはここの全校生徒の名前が載っているんですか?」

「いいえ。年齢幅が広いので属性魔法を所持していてある程度扱える生徒しか載せていません。誰かお探しですか?」

全員載ってないとはいえ、彼女の歳なら属性の一つや二つ持っていておかしくないだろう。

なぜ載っていなかったのだろうか…。

「実は昨日私たちがお世話になった人がいまして、こちらの生徒だとお聞きしたのですが…」

「リストにいなかったと?」

「はい。彼女はルリ=カトレットと名乗っていました」

「あぁ…カトレットさんですね。確かに載っていません」

そんなことかというような感じで先生は開いていたリストを閉じた。

「では彼女は属性魔法を持っていないってことですか?」

「えぇ。私は属性魔法の授業を扱っていますが、昨日の時点では持っていませんでした」

16歳って言ってましたけど?」

魔力を持つ者が魔法学校で教育を受けることが出来るのは6歳から。

属性魔法は早くて8歳。

遅くても14歳までに最低一つは所持しているものだと聞く。

なぜ彼女は一つも所持していないのだろうか…。

「あの歳で属性を一つも所持していない子は私も今まで見たことがありません」

「そうだったんですか…。彼女の教室に行ってみます」

「教室は3階にありますよ」

「失礼します。ミセル先生はいらっしゃいますか?」

お礼を言って立ち上がろうとした時、聞き覚えのある声が職員室に響いた。

 

 

―――――――――――

 

クラスで集めた課題を提出するために職員室に行った私は早くもあの2人に会ってしまった。

いくらなんでも早すぎる…。

「ルリちゃんっ!!

「なっ…なんでここにいるんですか!?

2人ともあなたのことを聞きに来たのよ。課題収集ご苦労様」

先生は課題を受け取ると、早々に去っていく。

「あの…私に何かご用ですか?」

わざわざ先生に私のことを聞きに来るくらいだから何か用事があるのだろう。

何か家に忘れ物かな…。

2人がいるせいか職員室はいつもより静かだ。

「ルリちゃんのクラスの実技の授業が見たくてね」

用って…それ…?

「なぜ私のクラスなのでしょうか…?」

「知ってる人がいた方が見てて楽しいじゃん。いつある?」

わざわざ私の授業見に来なくても…。

しかも実技…。

「この昼休みの後すぐですけど…恥ずかしいので出来れば他のクラスを見に行ってください」

「もう決めたからダメ。お昼か…ルリちゃんご飯食べた?」

「まだですけど…」

「それなら一緒に食べよう!確かお弁当出るんだよね?」

「あぁ」

再会してから初めてライルさんの声を聞いた。

あまり話さない人なのかな…。

「じゃ、ご飯持って大会議室に来てよ」

「えっ!?

「待ってるからね~」

そう言ってエリオルさんは手を振ってライルさんと行ってしまった。

反論する余地もなかった…。

仕方なく私は教室にお弁当を取りに向かう。

大会議室に行くとすでにドアの前で2人が待っていた。

「お待たせしました」

すれ違う生徒の視線をチラチラ感じる。

早く移動したい。

「どこで食べようか…ライル?」

「人が少ない所だな」

「ルリちゃんどこか良い所ない?」

「えっと……」

私は頭をフル回転させて頭の中にある学校の地図を展開させた。

人目を気にしないで昼食を食べられるのはあそこしかない。

「では屋上に行きましょうか。あそこなら誰もいませんよ」

幸いなことに今日はいい天気。

外で食べるにはもってこいだ。

「誰もいないってことは鍵が掛かってるんじゃない?」

「掛かってますよ。だから外から行きましょう」

「まさかまた空を飛ぶとか…?」

「そのまさかです」

そんなに覚悟のいることではないと思うのだけど…。

「ライル、またって…どういうこと?」

「…後で説明する」

私は軽く呪文を唱えて2人に手を差し出す。

「掴まってください」

エリオルさんは少し戸惑っていたがライルさんは躊躇わずに私の手をとった。

「先生に見つかると面倒なので声は出さないでくださいね」

そう言って私は2人を外へ連れ出した。