魔法学校(2)


 

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「はぁぁ~死ぬかと思った…。なんでライルは平気そうな顔してるわけ?」

エリオルは騙せたようだが、心の中では結構驚いていた。

2度目とは言え、一気に上昇するのには声を出しそうになった。

「大丈夫ですか?」

「うん…なんとか。ご飯食べよう」

とりあえずそれぞれ弁当を広げて食べ始める。

「あっ。ライル、さっきの“また”って何?」

ちっ…覚えてたか。

こいつのことだから言うまでしつこく聞いてくるだろう。

「お前が部屋に戻った後、彼女の森の見回りについていったんだ」

「それで空の散歩を2人で仲良く楽しんだと。俺ももう少しあそこにいればよかったなぁ~」

「あそこって…エリオルさんも屋根にいたんですか!?

そういえば言ってなかった。

自分で墓穴掘ったな。

「まぁ…ね」

「まぁね。じゃありませんよ!危ないことしないでくださいっ!

「ごめんね」

彼女はぶつぶついいながら再び弁当を食べだした。

―ピーンポーンパーンポーン

半分ほど弁当を食べ終えたところで校内放送が流れる。

―実技学校のライル=コートヴェールさん、職員室前にいらしてください。

「ライル何か悪いことしたの?」

分かってるくせに…。

呼び出されるのには馴れている。

「昨日会議に出なかったからな。何かの確認だろう。とりあえず行ってくる」

「見学は?」

「終わり次第行く。……ところでどうやって下に行けばいいんだ?」

「ドア開きますよ。オートロックなんです」

なぜ屋上の鍵がオートロック?

深く考えるのはやめ、俺は結局弁当を食べきれずにその場を後にした。

 

 

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エリオルさんと2人になった私はしばらく無言でご飯を食べていた。

何を話したら…。

私はいたたまれなくなってきて少し気になっていたことを聞くことにした。

「エリオルさん、私…何か気に障るようなことしてませんか?」

「へっ?」

エリオルさんは口にエビフライを咥えたまま気の抜けた返事をする。

「全然!俺らが図々しいんだよ。なんで?」

「いや…なんとなく」

「あっ!もしかしてライルが怒ってるように見える?」

なぜかエリオルさんは嬉しそうだ。

「そういうわけじゃ…」

口数は少ないと思うが、多分怒ってないと思う。

「それならいいけど。ライルは無愛想だし人前じゃ必要以上に口を開かないから誤解されやすいんだよね」

「どうしてですか?」

「不器用なんだよ」

「不器用…?何がですか?」

エリオルさんはそこで口を噤んだ。

気になるな…。

「でもルリちゃんは別みたいだね」

「えっ?」

「だって見回り一緒に行ったんでしょ?」

「えぇ」

「ライルが人の誘いをOKするなんて今までなかったもん」

私が強引に連れ出したような気もするけど…。

「そうですか…」

「どうする?気に入られてるかもよ?」

確証はないけど嫌われるよりはいい。

「気を悪くしてないならいいんです」

私はそれだけ言って残っていた最後のおかずを食べた。

―キーンコーンカーンコーン

予鈴だ。

「おっ、校庭に行きますか!

「ふふっ。外から下りますか?」

「遠慮しておきます…」

屋上を後にして一度校内に入る。

「エリオルさん、私と一緒に行くんじゃなくて授業が始まってから一人で来てくれませんか?」

エリオルさんに一切説明せずにお願いした。

というか言えない。

「いいけど…なんで?」

「すぐに分かると思いますけど…。怒らないでくださいね」

「?」

私は小走りで階段を駆け下り、校庭に向かう。

エリオルさんと一緒に行けば朝言ったことが嘘だとバレてしまうし説明も大変だ。

怒るだろうかな…。

グラウンドに出て形になりつつある列に並ぶ。

―キーンコーンカーンコーン…

授業開始のチャイムが鳴った。

「礼!

「お願いします」

「よしっ!みんないるな。今日は前回教えた基礎魔法応用のテストだ。出席番号順に3人ずつやってもらうぞ」

基礎魔法は移動魔法を含め、空気を操る魔法のことを主に言う。

特殊なものもあるが、使う機会はまずない。

前回やった基礎魔法の授業内容は物を浮かせるというものだ。

「ここにある15kgの石を3m以上持ち上げて5分間静止させろ」

自分が浮くのと物を浮かせるのとでは訳が違う。

浮かせる方がコントロールは難しいのだ。

「ねぇ…あの人実技学校の人じゃない?」

「えっ!?どこどこ!?

「カッコイイ~~!!

騒がしくなってきた周りの視線の先にエリオルさんの姿があった。

ほとんどの女子がエリオルさんを目掛けて走っていく。

あの隣にいたらと思うと…。

「こらっ!!説明はまだ終わってないぞ!!

そんなのあの子たちが聞くはずない。

「なるほどね……」

エリオルさんは私のお願いの意味を理解したようだ。

私は遠くから両手を合わせて心の中で謝る。

「戻ってこいっ!!

しびれを切らせた先生は呪文を唱えてエリオルさんに群がる女子たちを無理矢理魔法で引き離す。

「今のは引力の復習だ。よく覚えておけよ」

「はぁい……」

恐い顔で先生が制すると静かになった。

授業が再開する。

1から3番の奴は出てこい。他の奴らは練習な」

私を含めた順番待ちの生徒は散らばってその辺の石を浮かせ始めた。

「ルーリーちゃーん…やってくれるねぇ」

いつの間にか後ろからエリオルさんの冷ややかな声が聞こえる。

「すっ…すみません」

恐くて振り向けない。

やっぱり怒ってる!

「窒息しそうだったよ。女の子に囲まれるのは悪くはないけどさ」

恐る恐る振り返るとそこには笑顔のエリオルさんの顔があった。

「もうしないでね」

「はい…」

「なんの授業だ?」

練習に戻ろうとしたところにライルさんがやってきた。

エリオルさんに声をかけられた辺りから周りの視線が痛い。

ライルさんの登場で威力は更に増す。

だから嫌だったのに…。

「おかえり。結局なんの呼び出しだったの?」

「生徒代表で学校長に挨拶に行ってきた」

「首席は大変だねぇ」

編集長の情報通りだ。

「なんならかわるか?」

「遠慮しておきます…」

首席と次席ではそんなに仕事量が違うのか…。

「で、なんの授業なんだ?」

「実技の授業でしょ?」

「知ってる。俺が聞きたいのは内容だ」

聞いていられなくなってエリオルさんが話す前に私が口を開く。

「今日は浮力のテストなんです」

ライルさんは周りを見渡して納得したように頷いた。

「なるほど…自信の程は?」

「あります。基礎魔法は得意なので」

私は昨日の夜に言った言葉をもう一度言う。

属性魔法が使えないのだ。

頭がいいわけでもないし一つくらい取り柄が無くては。

「そうだったな。健闘を祈る」

「ありがとうございます」

「じゃ、俺たちは向こうで見てるから頑張って!

「はい」

そう言って2人は校庭の端にあるベンチに向かっていく。

簡単なテストだが、なんだかやる気が湧いてきた。

28から30番。集まれ」

私の番だ。

 

 

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エリオルとベンチに座り、少し遠くから彼女を目で追う。

「珍しいね。応援の言葉を掛けるなんて」

「そうか?」

「そうだよ。照れても無駄だよ」

「別に照れてない」

こいつは何が言いたいのだろうか。

「ルリちゃんが気にしてたよ。なんか気に障ることしたんじゃないかって」

「そうか…」

仕方ないだろうな…。

怒っていると誤解されることはよくある。

「ちゃんとフォローはしておいたけどね。ライル、ルリちゃんのこと気にかけてるでしょ?」

「はっ?………気のせいだろ」

そんな自覚はない。

今だってエリオルに付き合ってここにいるだけで…。

「何!?今の間!?図星でしょ」

「違う」

「気づいてないの?」

「なにがだ?」

勿体ぶらずにはっきり言えばいいのに。

エリオルのこういうところが癪に障る。

「初対面の子に一晩世話になったくらいで話しかけたりまともな会話したり。普段の君ならまずしないよ」

「……」

どこかに完全に否定しきれない自分がいる。

「あっ!ルリちゃんテスト出来たみたいだね。行こうか」

エリオルは話を切るように立ち上がる。

「あぁ…」

どうやら無事に合格したようだ。

エリオルの背を追いかけるようについていく。

「ライル、そろそろパートナー考えたら…?」

エリオルがどんな顔をしているか分からず、俺は何も言えなかった。

 

 

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―キーンコーンカーンコーン

授業終了のチャイムだ。

普段なら午後は3時間授業があるが、実技生が来ている間は一時間だけ。

つまり今日はもう帰れるのだ。

「ルリちゃん」

「エリオルさん」

ベンチから2人が戻って来た。

どんな話をしていたのかは分からないが、ライルさんは気難しそうな顔をしている。

何かあったのかな…?

「テストお疲れ様。いい感じだったじゃん」

「はい。おかげ様で」

テストは文句なしの合格だった。

練習しておいて良かった…。

石を浮かせている間の5分はとても長く感じた。

「今日はもうこれで授業終わりだよね?」

「えぇ」

「それなら俺たちも一度大会議室に戻らないと…ってことでルリちゃんまたね~」

またって……また授業見にくるの…?

2人を見送って私は質問攻めに合いながら教室に戻った。

授業が早く終わったため、バイトの時間まで余裕がある。

何をして時間を潰そうか…。

今日の復習もかねて練習室で魔法の練習をすることにしよう。

そのまま帰れるように鞄に荷物を詰め、教室を後にする。

練習室に行くと、ドアの前で挙動不審な行動をしている実技生がいた。

声をかけた方がいいのかな…?

「あの…どうかしましたか?」

「えっ?あっ!すみませんっ!!邪魔ですね…」

水色の短い髪に人形のように丸くてくりっとした目。

私より背が低く、声の高い可愛い女の子だ。

「いえ、私でよろしければ力になりますよ?」

彼女の顔がぱあっと明るくなる。

「よかった~!どうしたらいいか分からなくって…。練習室を使いたいの。実技生も使っていいって聞いたから…」

「私も今から使うところです。一緒に手続きしましょう」

「ありがとう!!!

彼女と一緒に練習室に入っていく。

個人的に練習室を使うには窓口で名前を書いて鍵を借りなくてはいけない。

「すみません。練習室を使いたいのですが…」

「空いてますよ。名前を記入してください」

使用者一覧表に必要事項を書き込んでいく。

「お名前は?」

「リリス=バジリアよ」

「リリスさんですね」

名前も可愛らしい。

「あなたは?」

「ルリ=カトレットです」

記入が終わり、紙を提出して鍵を受け取る。

練習室は全部で8部屋。

魔法で空間を広げてあり、設定次第で好きなフィールドのヴァーチャル空間を作り出すことができる。

「どれくらい練習していくの?」

「そうですね…一時間くらいでしょうか」

「私もそれくらいにしよう。ルリちゃんまた後でね」

そう言ってリリスさんは部屋に入っていく。

「さて、私もやりますか…」

私は森のフィールドに設定して練習を始めた。