花(1)


「ふぅ~そろそろ一時間」

練習室で練習したのは久しぶりだ。

空間をリセットして部屋を出ると、既にリリスさんが待っていた。

「お待たせしてすみません」

「私も今終わったところ。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった」

一人で練習してたのに

よく見ると所々服が汚れている。

「ちょっと待ってください」

軽く呪文を唱えて彼女に魔法をかける。

「磨きの魔法!!ありがとうルリちゃん」

リリスさん意外と魔法に詳しい。

なぜ分かったのだろうか。

ふと彼女の手にはめられた指輪に目が止まる。

「その指輪

「えっ?あぁ私はもう他の魔法使いと組んでるの」

あれが契約を交わした証

武器使いの指輪には魔法使いの名が刻まれ、魔法使いには石がはまった指輪がはめられる。

魔法に詳しいのも納得だ。

「ではなぜこの学校に?」

実技生はパートナー探しが目的で来ていると聞いたが

「パートナーがいろんなものを見て学んで来いって。ひどいでしょ」

「大変ですね

実技生に魔法学校ってどう映ってるのかな

「でもルリちゃんに会えたから来て良かったかも」

リリスさんはにっこり笑う。

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「今日はありがとう。助かったよ。またどこかで会えるといいね」

差し出されたリリスさんの手を握って握手をする。

「はい。またどこかで」

私たちはそこで別れた。

ピーンポーンパーンポーン

―C-1のルリ=カトレットさん、至急職員室に来てください。

えっ……

特に呼び出されるようなことはしていないはずだが

呼ばれたからには行くしかない。

仕方なく職員室に向かって歩いていく。

「失礼します」

職員室に入ると、待っていたのはミセル先生と実技学校の先生。

そしてライルさんとエリオルさんだ。

なんだろう……

嫌な予感がする。

「やぁ、ルリちゃん。さっきぶり」

「どうも

「まだ帰ってなくて良かったわ」

「どんなご用でしょうか?」

雰囲気からして私が何かやらかしたわけではないようだが

どう考えても2人絡みの話だろう。

「あなたがルリ=カトレットさんね」

「はい」

「はじめまして、実技学校のキュリエです。昨日は生徒がお世話になりました」

深く頭を下げられて慌てて自分も頭を下げる。

「い、いえたいしたことしてませんから」

この声昨日の電話の人だ。

見た目も思ったより優しい感じの先生であの怒鳴り声の主だとは思えない。

「あなたにお願いがあってお呼びしました」

キュリエ先生の目の奥が一瞬キラリと光った。

「なっなんでしょうか?」

「昨日2人が泊まる予定だった部屋が使われなかったので、宿の方が別のお客に貸してしまったみたいなんです」

キュリエ先生はライルさんとエリオルさんに責任を感じさせるような視線を送る。

2人の泊まる部屋がないそうなのよ」

「それは大変ですね

つい人ごとのように言ってしまった。

その話と私が呼び出されたことに一体なんの関係が

「魔法学校の訪問期間の間、つまりあと3日この2人を泊めて頂けないでしょうか?」

私は耳を疑った。

今なんて

「私の家ですか?」

そんなことがあっていいのだろうか。

実技学校側の問題じゃ

2人に相談したらあなたの家がいいって言うのよ」

「いかがでしょうか?」

キュリエ先生は困りきった顔している。

ミセル先生も学校のことがあるから受け入れて欲しいのだろう。

昨日は特例だった。

正直あまり良く知らない人を森に入れることはしたくないのだが

そんな訴えるような顔をされたら断れない。

わかりました」

「ありがとうございますっ!!どんどんコキ使ってください」

「ルリちゃんよろしくね~」

先生たちに挨拶をして2人と一緒に職員室を後にする。

ドッと何かがのしかかった気がした。

「本当に私の家で良いんですか?」

昨日だって何一つ満足なことはなかったと思う。

「もちろん!ごめんね、この町には他に知り合いがいなくてさ」

「いえ

私たちは校門に向かって歩いていく。

学校はいつ町を危険にさらすか分からないため、町から少し離れた所にある。

「いつも学校が終わったあとはバイトに行くんです。すみませんが、その間どこかで時間をつぶしてもらえませんか?」

お店で終わるのを待っててもらうのは申し訳ない。

「構わないよ。どこでバイトしてるの?」

「レストランです」

「へぇ~。じゃ、その間は町を散策しようか」

「そうだな」

十分くらい歩くとようやく町に差し掛かる。

「ここからが町です。とりあえずレストランに行きましょうか」

町でも2人は目立つようで、間すれ違う人はみんな振り返った。

「この町の規模にしては魔法学校の生徒が多いね」

「他の町から通っている人もいますから」

魔法を使える人は多くないため、各町に魔法学校をつくる必要はない。

魔力を持つ者は魔法学校に通うのが決まりだが、どの魔法学校に通うかは自由。

ほとんどの学生が魔法陣で通学しており、どこに魔法学校があっても関係ないのだ。

「なるほど

説明をしている間にお店にたどり着き、私は2人にバイトが終わる時間を告げて別れた。

 

 

「ルリちゃん。そろそろ終わっていいわよ。あ、野菜はデシャップにあるから」

「ありがとうございます」

店の奥に行き、エプロンを外しているとお店のベルが鳴る。

カランッ

客が来たと思い、再びエプロンをつけてカウンターに向かった。

「お疲れ様。そろそろ終わる時間だよね?」

やってきたのはライルさんとエリオルさんだ。

「知り合い?この辺じゃ見ない制服ね」

「昨日から魔法学校に訪問に来ている実技学校の生徒さんです」

「はじめまして。この店の店長のマリよ。時間があったらぜひ食べに来てね」

「もちろんです」

私は3人で話している間に再びエプロンを外し、残りの野菜をもらう。

「マリさん野菜いただきますね。お疲れ様でした」

「お疲れ様」

私はレストランを後にして2人と森を目指した。

道はひたすら真っ直ぐで森の入口に差し掛かる。

「ルリちゃーん」

私を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、八百屋の奥さんが小走りでこちらに向かってきていた。

よく買い物に行くため、お世話になることが多い。

とても気前のいい人だ。

「良かった~森に入る前で」

奥さんはそう言いながら鉢に植えられた花を私に差し出す。

「これは?」

花は蕾のまま萎れていた。

「私が大切に育ててる花なんだけどさ、やっと蕾が出来たと思ったら元気をなくしてね

この状態で枯れるのは確かに不自然だ。

「いつもはどこに?」

「天気の良いときはベランダに置いたりしてるけど

蕾まで育ったのなら普段通りに育てていれば問題はないはずだが

「一晩お預かりしてもいいですか?」

調べてみないとなんとも言えない。

「もちろん。一晩でいいのかい?」

「えぇ」

「よろしく頼むよ。引き止めて悪かったね」

「いえ。明日お届けしますね」

頼られるのはどんなことでも嬉しい。

「ありがとう」

そう言って奥さんは帰っていった。

私は2人と森の中へ入っていく。

「こういう相談良く受けるの?」

「たまにですけど

森の管理をしているからか、植物や動物の相談をされることは珍しくない。

「すごいなぁ~。まるで植物の医者みたいだね」

「そんな凄いものではないですよ」

私にできることは原因の究明だけ。

治せるわけではない。

「どうやって治すの?」

「特別なことはしません。一晩水をあげて世話をするだけです」

「それで良くなるの?」

「さぁ?花次第です」

エリオルさんは分からないような顔をしていたが、構わず家を目指して歩き続けた。

外灯のない森は2人の姿がやっと確認できるくらいまで暗くなっていた。

 

 

―――――――――――

 

「ルリちゃんはいつもこんな暗い中一人で帰ってるの?」

「そうですけど

もう日は沈み、辺りは真っ暗だ。

表情などはもうわからない。

会話がないと落ち着かないエリオルは彼女にいろんな質問をしている。

「女の子一人で夜道を歩くなんて危ないよ」

「危ないのはエリオルさんたちです」

「えっ?」

「この時間この森で一番安全なのは私ですよ」

まわりを見渡すと昨日も見たギラギラと光る目がたくさんこちらを見ていた。

もうこの森は彼女が支配していると言っても過言ではない。

「な、なるほどね

どうやら忘れていたらしい。

「着きましたよ」

「再びお邪魔しまーす」

エリオルはなんだか楽しそうだ。

宿に俺たちの部屋がないと言われて、真っ先に彼女の家を指名したのはエリオルだった。

何を企んでいるんだ

「今日は何作るの?」

ウキウキした様子でエリオルは彼女に近づく。

「カレーです」

「やった!大好物なんだよね~。何か手伝おうか?」

「では人参とジャガイモの皮を剥いて頂けますか?」

「了解~」

エリオルは鼻歌を歌いながら彼女のあとを追って台所に向かった。

突然振り返ったかと思うと俺をじっと睨む。

「なんだよ…。」

「ライル、働かざる者食うべからず!手伝いなよ」

「あ、あぁ

俺も台所に向かった。

カレー作りを手伝ったのは良かったものの

「っ……

あえなく失敗し、手を切った。

意外と難しい。

「大丈夫ですかっ!!?

「あぁ」

「見せて下さい」

「平気だ。ほっとけば治る」

幸い傷は深くないようだ。

「よくないですっ!!どんな傷でも悪化したら大変です」

そう言って彼女は強引に俺の手を掴み、治癒の魔法をかけていく。

……

みるみるうちに傷が塞がっていく。

「これで大丈夫です」

……すまない」

「もしかして皮剥き初めてですか?」

「あぁ」

家では料理をしている光景を見ることすらまずない。

カレーが出来ていく様子を一部始終見るだけでも貴重な体験だ。

まさか調理まで参加するとは

「私がやりますから見ててください。エリオルさんも」

「えっ!?俺は大丈夫

「じゃないですよね?」

手は切ってないものの、エリオルが担当した野菜はまだらに皮が残っている。

「慣れないことはやるもんじゃないね

「ふふっ。いきますよ」

彼女はジャガイモを一つ手に取り、滑るように皮を剥いていく。

「すっ凄い……これは芸術だ!!

エリオルは相当感動したようだ。

「ただの皮剥きですよ

「だって料理を作ってる所なんて見れないからつい楽しくて」

「そっそうですか」

彼女は苦笑していた。