花(2)



 

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「ルリちゃん皮剥き終わったよ~」

「ありがとうございます。この後は私がやりますね」

野菜の皮剥きにいつもの3倍も時間がかかってしまった。

夕飯は遅くなりそうだ。

皮剥き初心者はなんとなく予想していたが料理を作った所すら見るのが珍しいとは

お金持ちの人は出来上がった状態しか見たことないようだ。

エリオルさんは輝いた目でこちらを見ている。

もしかして昨日もこんな風に見られていたのだろうか

なんだかやりにくい。

とりあえず弱火で煮込むところまで調理し、私は台所から離れた。

「もう終わり?」

「あとはじっくり煮込むだけです」

「結構時間がかかるんだね」

「出来上がりのタイミングは適当ですけど。出来るまでトランプでもしますか?」

どんな遊びだったら共有出来るのか分からず、これくらいしか思いつかなかった。

というか、これくらいしか遊べるものがない。

私は少し埃がかぶったトランプを棚からとり出す。

「いいね~。ライル何やりたい?」

「任せる」

「よし!じゃ、ババ抜きやろう」

「はい」

トランプをよく切って3つに分け、ババ抜きが始まった。

ゲームなんて久しぶりだ。

誰かがいなければ出来ないものだから

 

 

「くっそライルの一人勝ちかよぉ

エリオルさんは悔しそうに手持ちのカードを投げ置く。

ババ抜き以外にも色々なトランプゲームをしたが、何度やってもライルさんが一番だった。

「全部顔に出てたぞ。分かり易すぎて話にならん」

「うっそ!!

ライルさんの言う通り、エリオルさんはどのゲームも自分にとって良い手札だと笑みを浮かべ、悪いと表情を歪ませていた。

そのおかげで私はずっと2番だ。

ライルさんの強さは本物だと思う。

「おかしいなぁ。平然を装ったつもりなのに

エリオルさんはふてくされて机に俯せた。

ふと時計を見ると意外と時間が経っていたことに気がつく。

そろそろいいだろう

「切りがいいところで夕飯にしましょうか」

「待ってました~」

エリオルさんは急に起き上がり、嬉しそうにトランプを片付けていく。

切り換え早いなぁ

私は台所に向かってカレーを人数分に盛り付けて机に運ぶ。

「どうぞ」

「いただきます」

2人は昨日と同様に美味しそうにカレーを食べてくれた。

嬉しくて夕飯がいつも以上に美味しく感じる。

ずっとこんな風に賑やかだったらいいのに……

高望みなのは分かっているが、2人と一緒にいてそう思わずにはいられなかった。

 

 

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夕飯を食べ終えると俺とエリオルは昨日寝た部屋に向かった。

「今日も外に出る??」

エリオルはそう言いながら窓を開ける。

「怒られるぞ。今朝起きれなかったんだから早く寝ろ」

少しむっとしたが事実を認め、言い訳はせずに大人しく布団に入った。

普段はこんなに素直じゃない。

「ライル次はトランプ負けないからなっ!!

そう言い放ち、エリオルは俺に背を向けてふて寝する。

まだ根に持ってたのか……

特にすることもなく、俺も寝ることにした。

 

 

どれくらい時間がたったのだろうか。

外はまだ暗く、俺は寝苦しさに目を覚ました。

起き上がると腹の上にエリオルの足。

紛れもなく原因はこれだ。

昨日はそんなことなかったはずだが、寝相悪かったのか

乱暴に足をどけたが起きる気配は微塵もない。

もう一度寝ようと思ったが、目が覚めて眠れなくなってしまった。

とりあえず起き上がり、水でももらおうと下に向かう。

階段を下りると少し明かりが見えた。

彼女はまだ起きているようだ。

俺は音を立てないように歩いていく。

一体何をしているのだろか?

こっそり覗くと彼女は笑ったり、悲しそうな顔を浮かべたりところころと表情を変えている。

その先には今日預かっていた鉢植えがあった。

ガタッ!

階段を踏み外し、音を立ててしまう。

!

油断した。

……ライルさん?」

なぜ俺はこそこそしていたのだろうか。

「取り込み中すまない」

「どうかしました?」

「目が覚めたら寝れなくてなってな水をもらえないか?」

「そうでしたか」

彼女は笑ってコップに水を注ぎ、俺に手渡す。

水を飲み干してちらっと花を見ると、完全とはいかなくとも元気を取り戻していた。

「この花

「あぁ朝には元気になると思います」

植物の生命力は俺たちが思っている以上に強いと聞くが

一晩でここまで回復するものだろうか?

「百面相の練習でもしていたのか?」

「みっ見てたんですか!?

「偶然な。なんで百面相なんか

「ちっ、違います!花を見てたんです」

「は?」

あまりにも普通の答えで意味が分からなかった。

「花を見ていると花の気持ちみたいなものが分かるんです」

「花の気持ち?」

彼女の言葉が理解できない。

「うまく説明出来ないんですが。今回は花の過去を少し聞けたので、その時の感情が顔に出たみたいですね

魔法で植物が扱えるという話は聞いたことがない。

無論、俺たち武器使いや一般の人間には不可能なことだ。

「今から森の見回りに行くんです。眠れないのでしたら一緒にいかがですか?」

「邪魔でなければ」

「では行きましょうか」

外へ出ていく彼女を追い、ドアの取っ手に手を掛ける。

?」

一瞬、背後で花が光ったような気がした。

 

 



「ライル、朝だよー」

……

エリオルの顔がだんだんはっきりしてくる。

「疲れてたんじゃない?よく寝てたよ」

見回りから帰って来ると不思議とすぐに寝ることが出来た。

「俺に散々なこと言っておいて今日はライルが起きれないのかなぁ~?」

エリオルはにやにやと笑いながら俺の頬をつついてくる。

誰のせいで寝れなかったと思ってるんだ

「お前と一緒にするな!

「八つ当たり?なに怒ってるのさ?」

「うるさい」

俺はズカズカと階段を下りていく。

「おはようございます」

「あぁおはよう」

やはり彼女は起きていた。

ちゃんと寝ているのだろうか?

「あっ!花元気になりましたよ。明日には蕾が開くと思います」

「ルリちゃんおはよう!本当だ~。凄いね」

いつの間にか後ろにエリオルがいた。

「おはようございます。朝食どうぞ」

机の上にはもう朝食が用意されている。

置いてあったのはカレーとパン。

「これ昨日のカレー?」

「えぇ。野菜の味が出て昨日よりもきっと美味しくなっているはずです」

「へぇ~。それじゃ、いただきまーす」

確かに昨日よりも野菜の味が感じられる。

こういう知識は俺たちの生活では知ることはなかっただろう。

朝食を食べ終わると身支度をして魔法陣のある裏庭に向かった。

「すみませんが、私は花を届けてから学校に行くので

「大丈夫だよ。場所は覚えたから」

「ではまた後で」

俺とエリオルは彼女の魔法で学校に向かった。

 

 

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私はライルさんたちを送り届けた後、空を飛んで八百屋に向かう。

八百屋に着くと、開店前で奥さんが忙しく野菜を並べていた。

「おはようございます」

「おや、ルリちゃん。おはよう」

「お花元気になりましたよ。もう大丈夫です」

そう言って奥さんに鉢植えを渡す。

「もうかい!?一体どんな力使ったんだい?」

「私は何もしていませんよ」

私は話を聞いただけで頑張ったのは花だ。

「お礼しなくちゃね~。帰りに寄りな!新鮮な野菜用意しとくから」

「ありがとうございます。では学校に行ってきます」

「いってらっしゃい!

奥さんと別れて学校に向かった。

「ルリちゃ~ん」

呼ぶ声が聞こえて辺りを見渡すと、マリさんが両手で手を振っている。

「おはようございます」

「おはよう。ルリちゃんお願いがあるんだけど

「?」

「今日バイトの子がみんな風邪とか用事で来れなくなっちゃったの。悪いんだけど、閉店まで手伝ってくれないかしら?」

それは大変だ。

「分かりました」

2人には説明しておけば大丈夫かな

他ならぬマリさんのお願いを断るわけにはいかない。

「ありがとう!急でごめんね

「大丈夫です。ではまた後で」

そう言って私は再び学校を目差した。