兆し


俺とエリオルは昨日と同様に大会議室にいた。

「それでは自由行動にしてください」

今やっと面倒くさいミーティングが終わったところだ。

「今日はどこに行く?」

「その前に職員室に行くぞ」

分からないことは知っていそうな人に聞くのが一番。

「えっ?なんで?」

「確かめたいことがある」

俺は何も説明せずに職員室に向かう。

「えぇっ!?!説明してよ!

「後でな。2回も説明するのは面倒だ」

ドアをノックし、中へと入っていく。

「失礼します。ミセル先生はいらっしゃいますか?」

直ぐに反応してやってきてくれる。

「昨日の実技生ね。何かしら?」

「お聞きしたいことがあります」

先生はしばらく俺の顔をじっと見た後、何か察したのか軽く辺を見渡す。

「こちらへどうぞ」

俺たちは昨日座ったあの席にまた案内された。

「お忙しいところすみません」

「いえ、それでご用件は?」

「俺たちが知らないだけで当たり前のことかもしれないのですが…」

「笑ったりしませんから言ってみてください」

そう言って先生は優しく笑う。

「魔力を持つ人は誰もが植物などの記憶や気持ちを見たり感じたり出来るのですか?」

先生の表情が固まる。

俺の言葉を頭で処理しているのだろう。

「それをどこで見たんですか……?まさかカトレットさんが?」

先生の表情が驚きと焦りに変わった。

「凄いことなんですか?」

「えぇ。物の記憶を辿る魔法はありますが、生物には出来ないはずです。もう少し詳しく聞かせてください」

俺は昨夜のことを話した。

花を見ているだけで魔法を使っているようではなかったこと。

一瞬花が光ったように見えたこと。

それにつけ加えて彼女流の森の見回り方も説明した。

「森の管理人をしていることは聞いていましたが…」

「もしかしすると彼女は属性を持っていないのではなくて…」

「気づかなかった。そう考えるのが妥当でしょうね」

「おそらく、彼女の属性は……」

それはおとぎ話にしか出てこない伝説の属性。

確認された話は聞いたことがない。

魔法に関して詳しくない俺が憶測で無いに等しい可能性を口にして良かったのだろうか。

だが、そう思わせるほど彼女は聞かされた人物像に当てはまる。

「調べる必要がありますね。これを」

渡されたのは白くて丸い石だ。

「これは…」

たまに学校で見かける石だが、本来出回っているのは白ではない。

「私が渡すよりあなた方の方が良さそうですし。お願いできますか?」

「分かりました」

ここで2限目の授業終了を知らせるチャイムが鳴った。

「あら、もうこんな時間。ちょうどC-1で属性魔法の授業なんですよ」

先生は手帳を開き、スケジュールを確認すると立ち上がる。

C-1って確かルリちゃんのクラス…」

「えぇ。行きますか?」

「是非」

 

 

―――――――――――

 

憂鬱な授業が始まった。

授業時間が長い上にライルさんたちはまた見学に来ている。

よりによって属性魔法の授業とは…。

「今回は前回の授業で制作したフィルストーンをランダムに配り、実際に使ってもらいます」

フィルストーンとは魔法が封じ込められた石のこと。

魔法を入れる前の状態の石はウェークストーンと言い、緑色をしている。

魔法を封じ込めると属性や種類によって石は様々な色に変色するのだ。

フィルストーンは少し大きな町なら簡単に手に入れることが出来る。

そのため、普通の学校でも使い方を学習すると聞く。

「先生~。一つウェークストーンが混ざってるんじゃないんですかぁ?」

いつも嫌みを言ってくる人たちの一人が手を挙げながら言う。

誰もが私を見て笑うが、これももう馴れてしまった。

「私が作ったフィルストーンを代わりに入れてあります。では配ります」

私に配られたのは青色だ。

おそらく水の属性だろう。

「今から練習室に向かいます。それぞれ順番に入って石を使用してください」

練習室は全部で8部屋。

それぞれの部屋にカメラが付いており、外からモニターで見ることが出来る。

石に入っている力は種類も威力も人それぞれのため、周りに危害が及ばないように個室にしたのだろう。

私たちは集団で移動して番号順に整列した。

自分の番になり、練習室に入るとフィルストーンを見つめる。

心を静め、石に力を求めると緊張が高まっていく。

石から水の矢が放たれ、木を2本貫通して3本目に刺さると矢は直ぐにただの水となって地面に落ちた。

「よくできました」

どこかに設置されたスピーカーから先生の声が響く。

「なんの魔法か分かる?」

常識中の常識だ。

「ウォーターアローです」

私はカメラに向かって答えた。

見た通りの名前を間違える人はいないだろう。

「正解よ。空間をリセットして出てきて。チャイムが鳴ったら勝手に教室に戻って良いわよ」

「はい」

部屋を出て行くとそこにはライルさんとエリオルさんがいた。

「お疲れ様。よく出来てたじゃん」

もう驚きはしないがなぜ私のクラスに見学しに来るのだろうか。

「モニター見てたんですか!?

「うん。先生が見せてくれた」

「そうですか…。でもあれは私の力じゃないので…」

他人の作ったフィルストーンを使うなんて一般人でも出来る。

「そういう授業なんだから問題ない問題ない!

「はぁ…」

今回の授業内容に感謝だ。

もし前回の属性魔法の授業だったら自分が情けなくてこんな風にライルさんたちと会話できない。

ここで授業終了のチャイムが鳴った。

「次お昼だよね?また屋上で食べない?」

「はい」

「んじゃ、後で」

私たちはひとまずそこで別れた。

 

 

―――――――――――

 

昼休みは3人で過ごしながら今後のことについて話し合った。

彼女は今日もバイトがあり、午後の授業が終わってからバイトの時間までは暇だとか。

話し合いの結果、放課後練習室で落ち合って時間を潰すことになった。

彼女は授業に行ったため、今は屋上に俺とエリオルしかいない。

「ライル…ルリちゃんにその石いつ渡すの?」

俺は先生から渡された白い石を見つめていた。

「分からない…」

この石はディバイストーン。

魔力のある者が触ると変色し、所持している属性を知ることができる。

彼女の属性が今まで気づかれなかったのは色に埋もれてしまっていたから。

「知らない方がいいのかもしれない」

「その気持ちは分からなくないけど…」

まだ決まったわけではないが、俺たちの予想は多分当たっている。

広く知れ渡れば彼女の力を利用しようと思う者もいるだろう。

「まっ、受け取ったのはライルだし決めるのもライル次第。俺は口出ししないよ」

エリオルは俺に背を向けて空を仰ぎ見た。

「……」

「その石を渡したらルリちゃんの人生は変わるだろうね」

俺はもう一度石を見つめた。

静寂の中、午後の授業終了のチャイムが鳴る。

「もう授業終わりか…。ミーティング面倒くさいなぁ…」

「仕方ないだろ」

俺たちは大会議室に向かった。

 

 

―――――――――――

 

放課後、私は練習室の前にいた。

ここで2人と落ち合うことになっているのだ。

「待たせちゃったかな?」

ここに来て5分も経たずに2人はやってきた。

他の学年の授業見学もしていなかったようだが、どこにいたのだろうか。

 「いえ、私も今来たところです」

 「じゃ、入ろうか」

中に入り、受付に向かうとリリスさんが手続きをしていた。

 「あっ……ルリちゃんっ!!

 「おチビじゃん」

途中まで笑顔だったリリスさんの表情が一変する。

「誰がチビよっ!!

背が低いのを気にしているのだろうか。

可愛いのに。

「ルリちゃんおチビと知り合いだったの?」

「えぇ。昨日知り合ったばかりですけど…」

「ルリちゃん気をつけて。こいつらと一緒にいたらおかしくなっちゃうよ」

「えっ?」

リリスさんはエリオルさんを睨みつけて私の腕に自分の腕を巻きつける。

どういうことだろうか?

「おチビ!変なこと吹き込むなよ!!

「だから誰がチビよっ!!

話が進まない…。

「まぁまぁ…とりあえず受付済ませて練習しませんか?」

「そっ…そうだね…」

誰かに止めて欲しかったが、よく考えたら私しかいなかった。

ライルさんは突っ込んだりしなさそうだし…。

「ライルたまには相手してよ」

「あぁ」

エリオルさんは手早く用紙に名前を書き入れて鍵を受けとっている。

「ルリちゃん一時間後ね」

2人は同じ部屋に入っていった。

「もしかして…宿に部屋がなくて魔法生の家に泊まってる2人ってあいつら?しかもルリちゃんの家」

「そうですよ」

 他の実技生にも情報が伝わってるんだ…。

「気をつけてね」

「?」

「特にコートヴェール。ほとんど口も開かないし何考えてるか分かんない。いけ好かないわ」

そんなこともないのだが…。

「大丈夫です。すでに2晩泊まっていますが、何もありませんから」

「それならいいけど…」

「心配してくださってありがとうございます」

私が笑顔で答えると、リリスさんも笑ってくれた。

「ねぇルリちゃん、私たちも一緒に練習しない?一人じゃつまらないし…」

「えっ!?

リリスさんは武器使いだよね?

「だめかなぁ?」

「だめじゃないですけど…」

一緒にって…どんな練習をするのだろうか。

武器使いの人と戦ったことなんて一度もない。

「もしかして武器使いを相手に戦うのは初めて?」

「はい…」

この学校では魔法使い同士が戦う授業だって少ない。

「平気平気。私もいろんな魔法見てみたいし。もう名前書いちゃったから行こう!!

「えっ!?いつの間にっ!!

しかも全く平気の理由になっていない。

「ルリちゃん早く!時間がもったいないよ!

まだいいなんて一言も言ってないのだが…。

結局私はリリスさんと一緒に練習することになった。

 

 

時間を知らせるブザーが鳴り響く。

「はぁはぁ……ルリちゃん凄い…」

「いえ…リリスさんの方が…」

リリスさんは俊敏に動き、武器である棍を軽々と振り回していた。

私は攻撃をかわしながら魔法を出すのがやっと。

もう息も切れ切れだ。

「ありがとうルリちゃん。いい経験になったよ」

「こちらこそ」

武器使いと戦うことなんてもうないだろう。

外に出ると、2人はすでに練習を終えていた。

「お疲れ様~」

ライルさんは変わりがないようだが、エリオルさんは少し生傷を作ったようだ。

「大丈夫ですか?」

「少しは手加減してくれてもいいのにね」

そう言ってエリオルさんは苦笑する。

「練習の意味がないだろ」

「リリスさん、エリオルさんの隣に並んでください」

「?いいけど…」

私は2人に磨きの魔法をかけていく。

磨きの魔法は破れたり汚れたりした服をきれいにすることができるのだ。

「うぉっ!!何これ!

「知らないの?磨きの魔法よ。ありがとう、ルリちゃん」

「おチビ、相当パートナーにやってもらってるだろ」

「う゛っ…あんたには関係ないでしょっ!!

どうやら図星のようだ。

ついでに治癒の魔法もかけて小さな傷も治しておいた。

「おっと…もうこんな時間だ。ルリちゃん行かないと」

時計を確認するともうバイトにいかなくてはいけない時間だ。

「もう終わりかぁ…ルリちゃんまたね」

「はい。また」

私たちはリリスさんと別れて学校を後にした。

「すみません…言い忘れていたんですが…」

そういえばバイトが遅くなることをまだ言っていなかった。

「今日他のバイトの人がみんな来られないようでして…閉店までいなくちゃいけないんです」

私は校門の前で立ち止まった。

地面にはいくつかの魔法陣が描かれている。

「すみませんが先に帰っていてもらえませんか?ここからなら家の前まで行けるので安全です」

2人が魔法陣に乗るのを待って魔法陣に触れる。

「ルリちゃん一人で手伝うの?」

「はい」

「それなら俺たちも手伝うよ」

「えっ!?いいですよっ!!悪いですっ!

突然何を言い出すのだろうか。

そんなことをしてもらうなんて申し訳ない。

ただでさえ、まともなもてなしも出来てないのだ。

「お世話になりっぱなしだし、手伝わせてよ」

「でも…」

「それにライルと2人っきりでいても面白くないし」

エリオルさんがちらっと後方を見るとライルさんも頷いている。

「ねっ?」

「それなら…お言葉に甘えて…」

私は魔法陣から手を離した。

断るのが下手だな…。

「そうこなくっちゃ。ライルも文句ないでしょ?」

「あぁ」

「じゃ、行こうか」

きっとバイトなんてしたことないと思うのだが…。

本当にいいのかな…。

私は躊躇いながらレストランに向かった。

 

 

軽やかな鈴の音が店中に鳴り響く。

普段なら空いている席にお客さんを案内するのだが…。

「すみません、今満席でして…しばらくお待ち頂けますか?」

お店は大繁盛だ。

ちょっとエリオルさんが宣伝すると女性客が一気に入店してきたのだ。

お店にとっては良いことだが、こんなに目まぐるしくお客が入れ替わることは普段ない。

「すいませーん。注文お願いします」

「はい!

この忙しさは閉店まで続き、結局最後のお客がいなくなるまで休む暇もなかった。

「お店の仕事ってこんなに大変なんだ…ライル皿洗いしかしないんだもん」

エリオルさんはぐったりとした様子でテーブルに伏せる。

3人ともお疲れ様。助かったわ~」

戸締まりを終えたマリさんが新聞を片手に戻ってきた。

「それは?」

「夕刊よ。忙しくて取りに行けなかったから」

「見てもいいですか?」

夕方にも新聞ってあるんだ…。

「どうぞ」

新聞をとっていない私は興味津々に広げた。

「……これって…」

私の目に一番に飛び込んできたのは、森が赤々と燃えている写真だ。

「たまにあるのよね…原因不明の山とか森の火事。ルリちゃんも気をつけて」

「ひどいっ…!

こんなことをする人の気が知れない。

「ルリちゃん落ちついて。ほら、もうこんな時間だしご飯ご馳走するわ」

心をなんとか静めて新聞を閉じる。

「いえ、そんな…」

「ここまで手伝ってくれたお礼よ。なんでも言って。腕によりをかけて作るから」

そう言ってマリさんは優しく笑った。

 

 

「ルリちゃんこれ…」

「?」

夕飯を食べ終えて帰る支度をしていると、マリさんから新鮮な野菜がたくさん入った袋を渡される。

「八百屋の奥さんがいつもの時間に前を通らないからって届けてくれたのよ」

そういえば帰りに寄るって約束してた…。

今度買い物に行った時にお礼言っておこう。

「ありがとうございます」

「暗いから気をつけて帰ってね」

「はい。ごちそうさまでした」

私たちはレストランを後にし、月明かりを頼りに歩いていく。

「家に着くの何時になるんだろ…」

「遅くなりますね」

見回りする時間がなくなっちゃうな…。

「魔法陣で帰りましょうか」

私はその辺に転がっている石を手に取り、魔法陣を地面に書いていく。

「よく覚えてるね…」

円陣の周りに長々と古代文字を書いているとエリオルさんは興味津々に見ている。

魔法を使う人でないと使うこともない文字だ。

意味も分からないだろう。

「これでよし。2人ともこの上に乗ってください。これ、玄関の鍵です」

家の鍵を渡すと魔法陣に手をかざす。

「え?ちょっとくらい待つよ」

「私は森の見回りをしてから帰るので、先に寝ていてくださいね」

「えっ!?ちょっ……」

そこで2人は家に送られた。

森の中心はここから直接行ってしまった方が早い。

地面に描かれた魔法陣を消して空を飛び、森を目指した。

新聞で見たあの写真が脳裏から離れず、猛スピードで飛んでいく。

とはいえ、ライルさんとエリオルさんがもう森にいるのだが…。

「大丈夫…だよね」

いつもと変わらぬ風景にホッと息をつき、耳を澄まして森の住人たちの声を聞く。

「うん…大丈夫」

自分に言い聞かせるように言葉にして私は家に帰った。

あれ?明かりがついてる…。

「おかえり~」

家の中に入るとライルさんたちはまだ起きていた。

「寝ないんですか?」

「もう寝るよ。なんかルリちゃんの様子が変だったからさ」

「あの新聞の記事が気になったんだろう?」

どうやら見透かされていたみたいだ。

「俺たちが先にこっちにいるのにね」

「えぇまぁ…でももう大丈夫です」

心配してくれたんだ…。

久々の感覚になんだかくすぐったい。

「それなら良かった。んじゃ、俺たちはもう寝るね」

「はい。今日はありがとうございました」

バイトも手伝ってもらってしまったし…。

「こちらこそありがとう。おやすみ」

「おやすみなさい」

2人は2階へと上がっていく。

「私も寝よう」

あまり考えすぎないよう、もらった野菜で何を作ろうか考えながら眠りについた。