大切なもの

直が『導光』で働き始めて、初めての依頼客がやって来た。
依頼人は、城田章吾(しろた しょうご)。彼は、恋人に渡す予定の婚約指輪(3ヶ月分の給料を貯めて買った)をこそ泥に奪われてしまったので、今日中に犯人を見つけ出して欲しいという。
早速、犯人探しを始める3人。そんな中、すぐに犯人を見つけた正義。犯人は、佐渡霞(さど かすみ)という少女。彼女は、両親を失くし、残された妹・奏(かなで)を養う為にスリで生計を立てていたのだが、妹が難病を患い、薬を買う金が足りないという。
霞の生い立ちに同情しつつも、指輪を取り戻したい正義達は、寛心へ相談するが、その為には万治草(ばんちそう)という薬草が必要だが、それはあまりにも危険だという。
3人は危険な山を超えて、万治草を探しに行く。
長い距離を乗り越えて、万治草が生えた崖を見つけたが、採取するには崖の上から縄で降りる必要があった。そこで、正義が採取する事になる。しかし、途中で縄が切れてしまい、危機一髪となるが、正義が枝にしがみついたおかげで、助かった。
その後、薬草を持ち帰り、すり潰した薬草を奏に飲ませると、病気は治った。
誰かの為に行動する事で、時に他の誰かを傷つけることはある。だが、誰かを大切に思う気持ち自体に罪はない。

『導光』店内
直は、受付で待機している。
直「さてと、今日から本格的にここで働く事になった訳だが……」
 
直の回想
正義「お前の仕事は、受付とお茶出しだ。くれぐれも、お客さんに失礼の無いようにな」
回想終了
 
直「(独り言)それにしても、昨日は色々と大変だったよなー。何せ、豪邸を襲撃して金まで盗んだんだからな。あの金は、全部貧しい人達に与えたが、金を盗むのはやっぱり気が引けるな。でも、正義の言う通り、指導者が変わっても、未だに世の中が苦しいのも事実なんだよな…」
章吾「あのぅ…」
直「(独り言)だが、わざわざあんな事をしなくても、もっと平和に解決出来る方法もあるんじゃないか? 例えば、炊き出しとか、仕事の提供とか、無料で治療をしてあげるとか…」
章吾「あのぅ…」
直「しかし、炊き出しや治療にはお金がかかるし、就職してくれる所が無いと、元も子もないよなぁ。一体どうすれば…」
章吾「(大きい声で)あの!『導光』って、こちらで合ってますか?」
直「ハッ!!」
直、章吾の声で我に返る。
 
客室
直、正義と章吾にお茶を出して、客室から出る。
正義「(笑いながら)いやぁ、すみませんねぇ。先日から、受付を雇ったもので…」
依頼人:城田章吾(しろた しょうご)
章吾「いえ、こちらこそ急に…」
正義「で、要件は何だ?」
章吾「はい。実は、僕は指輪を取り返して欲しいのです」
正義「指輪?」
章吾「はい、今日恋人に渡す予定の指輪です。今朝、恋人の誕生日に渡そうと、出かけたのですが…」
 
回想場面
章吾、恋人の元へ向かう途中、走ってきた少女とぶつかる。
章吾「うわっ!」
その弾みで、章吾の懐から、指輪が出て来る。
章吾「あっ…!」
少女は、それを持ち去ってしまう。
章吾「待ってー、泥棒ー!!」
回想終了
 
章吾「という訳なんです。ううう…給料3ヶ月分貯めて買ったのに…今日絶対に渡そうと、決めてたのにー!!」
章吾、机にひれ伏して泣き出す。
正義「まあまあ、泣くな泣くな。分かった、それじゃあその指輪を取り返してやろう」
章吾「(涙ながらに)お願いです、必ず今日中に探し出してください!」
正義「分かった。出来る限りの事はするよ」
 
 『導光』居間
智と直が会話をしている。
直「普段から隊員全員で、やってる訳じゃないのか?」
智「皆それぞれ本業があるからね。時々、他の隊員達の力を借りることはあるけど、基本的には僕と隊長の2人でやってるよ…」
直「じゃあ、導光隊の活動は、あくまでお金の為にやっている訳ではないんだな」
智「そうだね…。正義くんもこの前言ってたけど、皆はあくまで困っている人を助けようとか、世の中を変えようとしている人が集まってるから……それに、皆ここに来るまでに色々とあったからね」
直「色々?それって、どういうことなんだ?」
智「(取り乱して)あっ、これはこっちの話だから、特に気にしなくて良いよ……」
直「そ、そうか…」
直、智の言葉に疑問を感じるが、敢えてそれ以上は聞かなかった。

店の外
正義「依頼人の話によると、購入した指輪は翠玉(=エメラルド)という宝石で、輪の色は銀色。犯人は、10代前半の女の子で、身長は4尺6寸(=約138cm)くらい。丈の短い若草色の着物を着ているが、みずほらしい格好をしているそうだ。もし、見つかったら、即刻捕まえてから、他の者に連絡してほしい」
智、直「了解!」
3人は、ちらばって、少女を探す。
正義、街中を探す。その時、向こうで、お目当ての少女を見つける。
正義「あっ!」
少女、正義に気付いて逃げる。
正義「待ちやがれ!」
正義、少女を追いかける。
少女、角を回る。正義も後を追いかける。
少女、木に登った後、屋根に登る。正義も後を追うが、少女は枝をへし折って、正義に投げつける。
正義「うわっ!」
正義、裏に回る。
少女、外壁の屋根の上を走る。正義は少女を追いかける。
少女「チッ、しつこい奴だな!」
少女、屋根から飛び降りて、壁の向こうに行く。
正義「あぁっ!」
一方の智、少女を探す。途中、お目当ての少女が智の目の前を横切る。
智「あっ、あの子は…もしかして!」
その時、正義が現れる。
正義「智、アイツが犯人だ!」
智「分かった!」
智、少女を追いかける。
一方、直は少女を探して辺りをキョロキョロしている。
直「あの子は一体どこに…」
その時、走ってきた少女と直がぶつかる。
直「うわあっ!」
そして、2人とも尻餅をついて倒れこむ。
少女「イタタタタ……」
その隙に正義と智が追いつき、少女を捕まえる。
正義「さぁ、捕まえたぞ! さっさと盗んだ指輪を返せ!」
少女「ケッ、やなこった!」
正義「おい。そんな口の利き方だと、嫌われるぞ。それに、ソイツは彼女に渡す大事な指輪なんだ」
少女「そんなの知らねぇよ! 大体女くらい、他にもいっぱいいるだろ! こっちはたった一人の妹の命が、かかってるんだぞ!」
智「妹? それって、どういうこと…?」
 
『導光』店内の客室
正義、智、直が少女を囲んでいる。
指輪を盗んだ少女 佐渡霞(さど かすみ)。
霞「アタシは、1年前に、親を病気で亡くしてから、妹の奏(かなで)と2人だけで生活していた。

回想
霞(独白)「家が元々貧乏で、近所の人とも馴染めなかったし、頼れる人もいないし、子供に出来る仕事なんてない。それでも生きていかなくちゃいけないから、盗みで何とか妹と2人で生きてきた」
近所の人と馴染めず孤立している霞と奏。盗みを働く霞。
霞(独白)「でも、数日前から奏が突然、重い病気にかかって……医者に診てもらうにも薬を買うにも、お金がないし……」
奏、病気にかかる。
回想終了
直「それで、指輪を盗んで質屋に売ろうとしたの?」
霞「(開き直って)あぁ、そうだよ!なぁ、あんた達は、困っている人を助ける事が仕事なんだろ? だったら、病気の妹を助けたいと思う気持ちくらい分かるだろ?!」
正義、少し考える。
正義「分かった。そこまで言うなら、助けてあげよう」
霞「本当か?」
正義「但し、お代の代わりと言っちゃあなんだが、2つ約束して欲しい事がある。1つ、もし病気が治ったら、その指輪はちゃんと返す事」
霞「あぁ、それは約束する」
正義「そして、もう1つ。もう二度と盗みはしないこと」
霞「えぇっ?何で?」
正義「お前がやっている事は、妹を悲しませる事になるからだ。幾ら生活の為とは言え、もし、お前が盗みをやっていることを知ったら、妹はどう思う?」
霞「(渋々と)……分かった。約束する」
直「で、どうするのだ?妹の病気は」
正義「え? そりゃあ…」
 
森羅寺
寛心(ここでは、作務衣を着用)「脚気?脚気って、あの体がだるくなったり、足がむくんだり痺れたりして、最後は心臓が止まって死んでしまうっていう病気のアレ?」
正義「あぁ、そうだ。医者には診てもらったが、どこも治療は出来ないと言われてな…」
寛心「脚気って、確か原因も分からない病気なんだよね。こりゃ、マズイな……」
寛心、頭をポリポリとかきながら、困惑する。
霞「そんな!(寛心に向かって)お願いです!どうかアタシの妹を助けてください!!」
寛心「でもなぁ……(ぽつりと)万治草なら……」
正義「寛心、今のばんちそうって何だ?」
寛心「(我に返り)あぁ、万治草ね。万治草っていうのは、調合することで、どんな病気や怪我も治してしまうと言われる草だよ。確か、寺の近くの山に生えていたと思う」
直「それがあれば、治せるのか?」
寛心「多分ね。でも、万治草は、結構山奥までいかないといけないし、あそこの山は危険が多いから……」
正義、勇みよく立ち上がる。
正義「よーし、分かった! 今からその万治草を採りに行く。寛心、お前はこの山の地理について、よく知ってるだろ。案内して欲しい」
寛心「分かった」
霞「アタシも…!」
正義「霞ちゃん、気持ちは分かるけど、あそこは危険すぎる。お前は、妹の看病をして待っていてくれ」
霞「うっ…分かったよ…」
 
森羅寺近くの山・森羅山(しんらざん)
 
山に登る4人。寛心が先頭に立って歩く。
全員疲れている。
正義「なぁ、寛心。お前、本当にこの道で合っているのか?」
寛心「うん、よく登っている山だけど、万治草を採るのは、ざっと1年ぶり」
直「1年?」
寛心「万治草は、成長するまで、5~6年かかるんだよ。それに、ここでしか生えないから、毎年ほんのちょっとしか採取しないんだ」
智「そうなんだ……でも、それだけ凄い効果があるなら、独り占めしようとする人も出て来るんじゃないの?」
寛心「この山は、山菜や薬草がいっぱいあるけど、動物や虫も色々と出るからね。大変だよ。いきなり熊が現れるし、蜂に刺されるし、採取した山菜を狐に盗られるし、突然岩が転がり落ちてきた事もあるし、謎の生物(?)に追いかけられた事もあるし…」
※寛心の回想で、色々な危機に遭遇した図を描いて欲しい。謎の生物は、拓のシルエットで。
直「謎の生物?!」
寛心「それに、世間では、あまり知られていない薬草だし、たとえ知っていても結構危ない所に生えているから、わざわざ危険を冒してまで採取しようとする人は、ほとんどいないんだ。だから、あの薬草を独り占めしようとする人は、少なくとも今の所いないね。あと、道を間違えると、戻るのが大変だから気をつけて」
正義「あぁ」
 
山の中腹
寛心「さてと、もうそろそろお昼だし、お昼ご飯にしようか」
正義「なぁ、寛心。ごはんは用意してるだろうな」
寛心「もちろん」
寛心、竹の葉で包んだ弁当を取り出す。
正義「おぉっ!そんで、中身は?」
寛心「中身は…」
寛心、竹の葉を開くとおにぎりがあった。
正義「やっほー♪ やっぱ気が利くな!」
正義、寛心の肩を強く叩く。寛心は少し辟易。
正義「そんじゃあ、いただきまー」
正義が、おにぎりに手を出そうとした瞬間、
4人「うわっ!!」
鷹の大群が襲ってくる。
正義「大丈夫かって…」
そこには、おにぎりが無くなっていた。
4人「……」
呆然とする4人。
正義「くそー!鷹めー!俺のおにぎり返せー!(血涙)」
智、正義を必死で抑える。
智「隊長、落ち着いて!」
 
更に山道を行く。4人とも、空腹でぐぅー…と腹がなっている。
正義「なぁ……寛心。この近くに山菜とかないの?」
寛心「そんな事言われても、まだ見つからないよ~」
正義「えー?」
そんな時、背後から大熊が現れる。
4人、後ろを振り向く。全員大熊が美味しい肉に見え、涎を垂らしながら目をギラギラと光らせる。
大熊「ウオ?」
そして、山の中でウオオオオン!と、大熊の叫び声がこだました。
 
4人、大熊の肉を食べ終えて、満足している。周りには、骨が散乱している。
正義「いや~食った食ったー」
寛心「こんなに旨い肉を食べたのは久しぶりだよ~」
直「あぁ、これだけ旨いものを食べたのは、初めてだ」
智「まさに、空腹は最高の調味料だね……」
正義「よし、これで腹も膨れたことだし、探索を続けるぞ!」
智、直、寛心「おーっ!!」
 
崖付近
崖の上の方に、万治草が生えている。
智「でも、あれだけの高さ、どうやって取るの……」
正義「なぁ、寛心。お前、どうやってあの草を取ってたんだ?」
寛心「え? そりゃあ……」
 
崖の上
正義、腰に縄を縛られる。
正義「おい、まさかここから崖を降りるって言うのか?」
寛心「うん、僕が子供の頃は、和尚さんに縄を引っ張ってもらって、薬草を採ってた。最近は真田くんに採ってもらってるけど」
正義、智、直「……(汗)」
智「(崖の下を眺めながら)ねぇ、もし、ここから落ちたら…」
正義「智、それ以上言うな」
智「あっ、ごめん……」
寛心「それじゃあ、今から正義くんが落ちないように、皆で縄を引っ張るよ」
智、直、寛心が縄を持つ。
正義「それじゃあ、いくぞ。俺が落ちないようにしっかり引っ張ってくれよな」
智「分かった」
正義「それじゃあ…」
正義、慎重に縄をつたって崖を降りていく。
途中、石ころが崖を転がり落ちていく。
正義、思わず下を見るが、そこから落ちたら、死ぬ高さだった。
正義「ダメだ、ダメだ! 下は絶対に見ちゃダメだ」
正義、やっとの事で、万治草が生えている所に辿り着く。
正義「よし、これで…」
正義、万治草に手を伸ばそうとした瞬間、縄がちぎれる。
正義「うわあっ!!」
直「正義!」
3人が下を見ると、正義は枝にしがみついていた。
正義「ふーっ…危なかった…」
智、直、寛心「ほっ」
 
森羅寺
寛心、万治草をすりこぎですり潰す。
寛心「よし、これで完成だ。あとはこれを…」
寛心、薬を匙ですくって奏に食べさせる。
寛心「どうだい?」
奏「う…ん……?」
5人が奏の様子を見守る中、奏が目を開ける。
霞「奏……」
奏「お姉ちゃん……?」
霞「(嬉し涙を流し)治った!奏の病気が治った!」
霞、奏を強く抱きしめる。
正義「おぉ、やったな!」
霞「良かった、本当に良かった……!」
 
正義、智、直、霞、奏が森羅寺を後にする。
?「お疲れ様」
直が後ろを振り向く(他の人は気付いていない)と、立がいた。
直「誰だ、お前は?」
立「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は、真中立(まなか りつ)。よろしくね。桜庭直ちゃん」
直「な、何で私の名前を?」
立「まあまあ、そこは置いといて。今回のお仕事、お疲れ様。けど、あの子の病気、わざわざあんな薬草に頼らなくても、治せたのに」
直「それはどういう事だ?」
立「そうだね、とりあえず次からは毎日玄米を食べさせてあげなさい。栄養バランスには気を付けないとダメだよ」
直「ばらんす?」
立「まぁ、本当は豚肉が一番良いんだけど、(笑いながら)確かこの時代の人って豚肉は食べないんだっけ?」
直、怪しい目で立を見る。
立「あ、ちょっと難しい話だったかな? (笑いながら)ごめんごめん」
直「真中とか言ったな。お前は一体何者なんだ?何しに来たんだ?」
立「僕? 僕はね、君達に興味があるんだ」
直「興味?」
立「自分達が言う正義とやらで、人助けをしている君達の事が、とても気になるんだよ」
直、立を不審な目で見る。
正義「(遠くから)おーい、何してんだよ。早くこっち来いよー」
直「(正義に向かって)あぁ、分かった」
直、その場を立ち去る。立は、不敵な笑みを浮かべる。
 
ト書き「明治時代、脚気は原因不明の難病とされ、主に都市部や陸軍の鎮台所在地、港町で流行り、特に中流・下層階級で多発。
死亡率も高く、毎年1万~3万人もの命が奪われていたと推測されている。」
※脚気で苦しむ人の様子を描いてほしい。
 
『導光』前
章吾「ありがとうございます。おかげで、恋人に渡すことが出来ます」
正義「次に会う時は、良い報告を頼むよ」
章吾「はい、それでは」
章吾、店を去る。
正義「さてと、これで一件落着だな」
智「霞ちゃん、妹さんの為にも、もう盗みはしないと約束させたしね…」
直「でも、城田さんも、霞ちゃんも、大切なものがあるのは同じなんだよな」
正義「そうだな。城田には彼女が、霞ちゃんには妹が。誰もが、大切な人を守り、幸せにしようとしていただけなんだよな。でも、時としてそれが原因で、他の誰かを傷付ける事だってある。そりゃあ、それらが全て仕方無いで済まされるとは限らない。けど、誰かを大切に思う気持ちに、何の罪も無いからな…」
直「誰かを大切に思う気持ち、か…」
その時、直はふと考える。
直「私の大切なもの……」
 
直(独白)「私の大切なものは両親だ。でも、父が辻斬りの濡れ衣を着せられて処刑されて、母はそれを苦に、私と無理心中を図って、私だけが生き残った。その後、真犯人の山口将生を見つけ、導光隊が仇を討ってくれた。でも、死んだ両親はもう…」
※直の回想図を描いて欲しい。
 
直「(ぽつりと)……私は、一体どうすれば良いのだ?」