Truth0/最果ての村カルッサ—人と「魔導士」と「幸せの土地」【0-α】

 ――目の前は真っ暗だ。何も見えない、不安が募る。
 だけど声が聞こえてくる。懐かしくて心地良くて優しくて、でも芯のある力強い声。
 自分がこの世界で、一番信頼している人の声。
 暫く聴く事が出来なかったその声が、暗闇の中から話し掛けてきた。
「一人で目指し、わいは付いていかれへん。其処は誰もが幸せになるって噂らしいんや。東世界にあるらしいさかい、虹を頼りに探してきい」
 それはかつて言われた言葉と同じもの。今自分がしている、この旅のキッカケになった言葉だ。
 声に向かって答える。見えない相手に、想いを伝えようとした。
「俺、絶対見つける。やって俺……!!」
 言葉は中途半端に途切れ、相手の気配と共に消えていく。
 声は耳を澄ましても二度と聞こえない。覆っていた周囲の闇は何時の間にか目映い光に変わっている。不思議な七色の空間を彷徨いながら、何かを掴もうと手を伸ばすと、
 金属の落ちる鋭い音が、響き渡った。――――



 広く青い空に、鮮やかな虹が直線を描いて伸びている。
 異世界フィルアース、東世界・平原地帯。草が疎らに生える大地の上に止まっている灰色のオープンカーの運転席で、紫のグラデーションが入った不思議な色の髪をした少年が、虚ろな目をして天を仰いでいる。
 頭部に巻いた長い水色と白の鉢巻が、風に持ち上げられて顔に降り落ちる。髪と同じ色をした瞳を手で擦っていると、鉢巻を摘み上げた細い腕が引っ込んだと同時に、男児と女性の声が聞こえてきた。
「カマック、おはようなのだー。いや、もうお昼だからこんにちはなのだー。目覚めのバナナ茶をあげるのだー」
「行きましょ、カマック。休憩は十分取ったし、この景色も飽きたわ」
 カマックと呼ばれた少年は差し出された緑色の湯呑を無視すると、首を縦に振る。足下に落ちている日本刀は、愛用の武器・刹月華。旅を始める時にある人から借りた物である。

 閉じかけていた目を開き、刀を拾って助手席に置く。空は見事な晴天、絶好の「追いかけ日和」である。
 キーを回してエンジンを起動させ、両手でハンドルを握り締める。右足でアクセルを強く踏むと、車は勢いよく前進を開始した。
 ――そろそろ進もう、約束したんだ。
 約束を果たしたら、どうしてもしたい事があるんだ。
 途中で仲間が出来た、俺は一人じゃない。一人じゃなかったらきっと直ぐに目的地は見つかるだろう。だから、
 それまでどうか、俺を待っていて欲しい。――

 果てしなく伸びる道標の虹の下を、旅人達を乗せた車が走る。流れ過ぎる平原は所々に穴が開いており、錆びて風化した刀剣や鎧が赤い旗を挟んで地面に置き去りにされている。
 姿の見えない獣の気配を肌寒い風の隙間から感じる。混沌とした地を駆け抜けていると、後部座席から仲間達が話し掛けてきた。

「で、汚いヨダレを垂らしながら、あんたは一体どんな夢を見ていたのかしら?」
「のだ?あの時の事なのだ?」
「あの時?」
 不思議そうにしている女性に、カマックは笑いながら返事する。目線を前に向けたまま男児と共に語り出したのは、
 ちょっと懐かしい、でもちょっとじゃない程深く心に残っている、とある最果てと呼ばれる村での、「人」と「魔導士」の物語――――