「ありがとうございましたぁ~」
「ご利用ありがとうございました」


深くお辞儀をするオレと、隣に右手をヒラヒラと振っているイルーファが見送る中、五人の旅行客はすぐ近くの分かれ道へと進む。
やがて、見えなくなった。

「行ったみたいだぞ。ルイシャ」
「・・・・・・ああ」

左右を見て、この街道に他には誰もいないことを確認。よーし、横のイルーファ以外は誰もいないな。
オレは、やや大きめの眼鏡を静かに外して大きく深呼吸。そして、

「ったく、案内してもらってる立場の人間があーだこーだ注文しやがって!
あんた達からは最低限度の料金しか貰ってないんだぞ!
なのに、食事がまずいから別のものが食べたいとか、宿屋が気に喰わないとか!
料金貰ってるから何も言わなかったけどな、ちょっとぐらい、運んでいるこっちの身にもなれー!
かーっ、思い出しただけでも腹が立つー!」

ここ数日間の鬱憤を全て吐き出すように、オレの腹の奥底から出された声は、思った以上に周りに響き渡る。
更に、近くの木々に止まっていた数匹の鳥が一斉にこの場から逃げ出した。
うわぁ・・・・・・ひょっとして、あの客達に聞こえたかな?

「・・・・・・ルイシャ、そろそろいいか?」
「あぁ? あ、うん」

イルーファは、何事も無かったかのように平然と、オレに確認する。
ふう、普段ならまだ虫の居所は悪いはずだけど、今日はもうすっきりしたみたいだ。
オレはすぐに眼鏡をかけなおすと、いつもの眩しい営業スマイルを素早く作ってイルーファの方を向く。

「ありがとう、大分すっきりした」
「相変わらずだな。その二重人格」

う・・・・・・いや、これは普段かけている眼鏡を外すと本来の性格、地が出てしまうだけで、一つの人間に二つの人格が生まれる精神障害ではない。

「だって、あんなに態度の悪い客なんて今まで相手にしてなかっただろ?
しかも、一週間も相手をすると、さすがにイライラは溜まるよ」
「まあ、確かに。それは言えるが・・・・・・仕方ないだろ。それが俺達の仕事だし」

オレことルイシャと、常に無表情な相棒のイルーファは『運び屋』という仕事をしている。
この仕事は、武器や魔法が扱えない一般人を、盗賊や獣から守りながら、安心して目的地に辿り着けるように護衛をする。
まあ、傭兵みたいなものだな。
この仕事をやってるオレと相棒はその一般人には含まれていない。
オレ達は十六歳だけど、オレは魔法を扱う『属性使い』いわゆる魔法使い。
イルーファは剣が使えるし、煌霊を呼び出せる『煌霊使(こうれいし)』だ。
この二つの仕事については、また後ほど。

「まあなぁ・・・・・・さぁて、次の街に行きますか」
「うむ、予定より早く仕事が終わったからな。この先にある街で、何日か時間を潰そう」
「よーし。久しぶりに、宿屋の大きくてふかふかのベッドで寝られるな~」

オレとイルーファは、街道をまっすぐ歩き始めた。
辺りを見回してみると、やはり街道にはオレ達二人だけ。
街道の側にある木々は青々としている。
今の季節は、丁度雨期を過ぎてもうすぐ夏が来る頃だ。

「そういえば、次の街って初めて行くけど、何ていう街だ?」

歩きながら尋ねると、イルーファは、ポケットに入れていた地図を取り出して両手で開く。
そして、この街道を指で辿っていく。

「カスティミア。別名『水の聖都』って呼ばれるほどの大きな都市で、この辺り一帯の水源地だ」
「へぇー」

確かに、ここまでずっと街道を通ってきたけれど、この辺り一帯の植物はやけに大きい。
街道沿いに生えている雑草でさえも、しっかりと生えている・・・・・・ん?

「なあ、イルーファ」
「うん?」
「この辺り、本当に水源地の近くなのか?」
「? そうだが」

ならば、俺の目が一瞬でおかしくなってしまったのか、それとも、目の前の景色が一瞬で変わってしまったのか。
どちらなのだろうか・・・・・・。

「・・・・・・今、オレの目には地面むき出しの荒野が映っているんだけどさ。これは気のせいか?」

ほんの少し前まで、元気な植物が埋め尽くしていた草原が、ある地点を境に急に辺り一面が茶色に。
これは、植物が一面枯れているわけではない。
この場所に、植物そのものが存在しないのだ。

「気のせいじゃない。俺の目にもきちんと映っている。それに・・・・・・」
「それに?」

イルーファが目を向けている方向を見てみると、そこには街道沿いにずっとある、つい先程まで、ほんの少し前まで大きな川が流れていた場所。
そこには既に水が一滴もなく、完全に干上がっていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・水の聖都で、何かが起こっているようだな」