意外にも、目的地は先程の場所から少し離れた地点にあった。
ここは、丁度屋敷の中心にある部屋のようだ。
オレ達三人は、その部屋の扉の前で一時停止。お互い、顔を見合わせる。

「ここが、レキサドラが置かれている場所のようですね。油断しないで下さい」

オレとイルーファは小さく頷く。それを確認して、ノアは扉の取っ手に手をかける。
そして、一気に引く。
扉が完全に開け放たれた。
突然表れた眩い光。部屋の中には照明があるようだ。
その光の中から、水の音が聞こえてくる。
ようやく目が光に慣れた頃、目の前には異様な光景が。
部屋の床にはたくさんの溝が掘られ、その溝全てに大量の水が流れ込んでいる。
その溝の終着点である中央に佇むのは、水で満たされている大きな皿のような形をした石がいくつも重なり合って出来ている巨大な祭壇。
そしてその上には、水晶のように磨かれた、淡い空色の光を放つ石が浮かんでいた。
オレとイルーファは、呆然とその石を眺める。

「ノア、あれが・・・・・・レキサドラなのか?」
「・・・・・・ええ」
「・・・・・・凄い力だな」

その証拠に、レキサドラが浮いている真下には皿のような石の中に入っている水が少しずつレキサドラの中に取り込まれていっている。

「では、回収しましょう」

ノアは、祭壇の中央へと向かう。オレとイルーファも、急いで後を追う。
ノアが祭壇の真正面で立ち止まると、祭壇の上にあるレキサドラが強い光を放ち始めた。
すると、レキサドラの側に別の影が。

『あら、ここの家の者ではないようね。どなた?』

オレ達の周囲の空気を震わせて聞こえてきた声の正体は、どうやら目の前の煌霊のようだな。
一見、人間の女性と見分けがつかない容姿。だが明らかに人間とは雰囲気が違う。
そして、そいつはレキサドラの側でふわふわと浮いている。

「ノア・F・エンティアと申します。『転生石』の水の煌霊ラフィンシアよ」

向こうは少し驚いた表情を見せた。

『あら。貴方エンティアの人間だったの?
ひょっとして、私を回収しに来たのかしら?』

ラフィンシア、と呼ばれた煌霊は、両手を後ろに回して手を組んでノアを見下ろす。

「その通りです。分かっているのならば、話が早い。
手荒な真似は致しません。元ある姿に戻りなさい、ラフィンシア」

ラフィンシアは、くすりと笑った。
小さな子供が何か良からぬことを企むような、無邪気な笑い方だった。

『いや』

今まで普段の表情を保ち続けていたノアでも、さすがに険しい表情が見え始める。

「・・・・・・やはり、言の葉だけでは上手く行きませんね。
では、どうすれば納得してもらえますか?」

苦い顔をしているノアに対し、ラフィンシアは依然余裕の表情を見せたままだ。

『簡単なこと。私に勝てばいいだけのことよでも、貴方には厳しすぎるわねぇ。
だって、貴方あのエンティアの人間のクセに、魔法が使えないようだし』
「クッ、痛いところを突きますねぇ・・・・・・ですが、私は魔法が使えなくとも、少しは戦う術は持っていますよ」

なるほどな。先程までのノアと煌霊とのやり取りで、オレ達が雇われた理由がようやく分かった。

「そうそう。それに、オレ達もいるしな」

オレの突然の割り込み発言に、ノアは、驚いて俺とイルーファのいる後ろを振り返る。

「戦力不足だったんだろ? あの煌霊を鎮めるための」
「・・・・・・私とクレイは魔法が使えません。
煌霊と平等に戦うためには、魔法と同じ煌霊が必要だったので」
「・・・・・・仕事は仕事。頼まれたら、やるしかないな」

イルーファは、無表情のまま剣を鞘から抜く。
そして、オレも普段隠しているタリスを見えるように取り出す。
戦闘体勢には入ったオレ達を、ラフィンシアは面白いものを見ているような表情で見下ろす。

「・・・・・・報酬は、後で御支払いしますよ」

了解。ウチの運び屋は、報酬以上に待遇を良くするのがモットーなんでな。
全力で行かせてもらうよ。